「海紅」ごくせん~九月号より

 

【今月のごくせん】

雲の峰どんと伸び僕ら疲れている  高橋登紀夫

虫の好く女で困る  若木はるか

【梶原由紀】
新婚さん幸せですか凌霄花次々と咲く  森川チヤ
特選:凌霄花はまさに「次々と」咲くものだと、気づかされました。次々と咲く姿に、新しい家族への祝福や希望を感じました。凌霄花のあかるい色合いも、新婚さんのフレッシュな姿に適っていると思います。

雲の峰どんと伸び僕ら疲れている  高橋登紀夫
雲の峰と僕らのギャップが面白いと思いました。夏は風景こそ立派ですが、人間などの生き物は暑さに疲れてしまうものですね。「 どんと」の一言で雲の峰を言い表している点が、特に巧みです。

盗人はこの中にいる七月始まる  風呂山洋三
ドラマティックな句だと思います。七月の、ますます湿度が上がり暑くなってくる時分は、盗人を刺激するのかもしれません。

甘ったるい梅干しばかりの世の中になりました  安達千栄子
「甘ったるい」は、梅干しと世の中にかかっているのでしょうか。安易な思いやりが裏目に出てしまう風潮が、梅干しに現れている印象を受けました。

望郷 古靴はすてた大河を渡り  小山智庸
河の大きさは故郷を離れた時間の象徴なのでしょうか。一字空けに大きな時間の隔たりや、経ってしまった時間に対する逡巡を感じま す。

【正木土易】
雲の峰どんと伸びて僕ら疲れている  高橋登紀夫
特選:くるり(バンド)の楽曲や、村上春樹の世界みたいだ。この若々しいけだるさ。

うなだれて鬼百合  湯原幸三
オニユリなどという名前を付けられる不条理。可憐なのである。

虫の好く女で困る  若木はるか
困るのか!?オンナゴコロの妙をうまく切り取ってみせてくれる作者。

私はよそ者この森の掟守って呼吸する  吉川通子
読めば読むほどこころに沁みわたってくる。こういう立ち位置を忘れずにいたい。

夜の闇よ帰るなら寂しさも連れてってくれ  中塚唯人
飲み会などがすっかり嫌になってしまった時期があった。楽しければ楽しいほどお開きが寂しくて辛いから。(今はそんなことないですが。)

【若木はるか】
お月さまの私を笑ってください        正木土昜
特選:最も心に沁みました。すとんと入ってきますね。何も難しい言葉は使わずに一句を作るのは、やさしそうに見えて、なかなかできません。今日、何があったのかしら?想像すると自然と微笑みが浮かびます。月や雲と語り合うのも俳句ならではの楽しさだなあと思います。

どうせ届かない愛を叫ぶ       湯原幸三
作者が幸三さんと考えると、これは動物のことかな、と思いました。作者自身のことならそれはそれで素敵ですね。世界の中心で愛を叫べなくても、届かない愛なら叫べるのかなとか。いろいろ想像が広がる楽しい句です。

雲の峰どんと伸び僕ら疲れている        高橋登紀夫
そうです、疲れています。この暑さいいかげんにしてよ、と入道雲を恨めしげに見上げる光景が目に浮かびます。

藪蚊とまれ打たれる覚悟できてるか        原鈴子
昨年は幸三さんの 
夏に刺される 
がダントツにカッコ良かった。今年はこの句じゃないですか。この対決姿勢の打つ覚悟満々の潔さ! この「とまれ」は自分にですよね。肉を斬らせて骨を断つ、血は吸われても仇は討つ。カッコ良くてユーモラス。

ブルーグレイの長い尾のおしゃれな鳥だがちとうるさい        吉川通子
なんだか気になる句。バードウォッチャーの正直な呟きなのか、クスッとしてしまいます。この長さは長い尾に引っかけて、わざとでしょう。

【風呂山洋三】
雲の峰どんと伸び僕ら疲れている  高橋登紀夫
特選:「雲の峰」。つまり入道雲を見ると「いよいよ夏本番だなあ」などと、夏特有の開放感に初めはとらわれます。しかしながら、暑い日が続くと次第に倦怠感を覚えていくものです。これはあくまで私の個人的な感慨ではありますが、この句ではそんな私の気持ちを代弁してくれたかのように感じました。「僕ら疲れている」。他人の実感が自分の実感と同調する。俳句の面白さとは実にこういう所にあるものだと嬉しくなります。

かき氷の旗子沢山をなつかしむ  菅原櫻子
そう言えば子供の頃、近所の商店なんかで何人かの友達とかき氷を食べた記憶があります。あの頃に比べると、子供の数も大分減り、商店などもコンビニへと姿を変えました。本来の句意とは違うかもしれませんが、私にとっては少年の夏の日を思い出させてくれた一句です。

青田に濃淡ありて絵筆の動くなり  高橋毅
絵心の無い私にとっては何とも羨ましい一句。確かに青田にも微妙な濃淡があり、それを絵筆で表現できれば、さぞかし気持ちの良いものでしょう。堅い文語体が碧梧桐あたりを思わせ、どっしりとした存在感を漂わせます。

ここだけの話玄関の朝顔咲いてたよ  中塚唯人
朝顔と内緒話の取り合わせは昨年も見ましたが、朝という短い時間に咲いているところがポイントなのでしょう。内緒話にはうってつけです。

虫の好く女で困る  若木はるか
インパクトのある句です。対象となっている女性がいい人で逆に困ってしまう。はじめはそう捉えてみましたが、よく考えてみると、虫が寄ってくる女(作者)で困るとも取れることに気が付きました。恐らくは後者なのでしょう。それともダブルミーニングか。二度おいしい句です。

 

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