「海紅」ごくせん~十月号より

【今月のごくせん】

やる気になると雨になる  吉川通子

決心したとたんに、その決心の邪魔が入ってしまうあの感じ、とても共感します。 また、この頃の天気予報の変わり身の早さは、人間のやる気をことごとく裏切ってしまう気がします。(梶原由紀)

このパターンで他にも作れそうなので、今度真似したいと思います。布団を干そうと思ったり、洗車をしようと思うと雨が降るものです。(風呂山洋三)

【梶原由紀】
白いセダンの連れてきた真夏の夜のにおい  風呂山洋三
特選:待ち合わせでしょうか、洒落たセダンの姿が目に浮かびます。 外の生ぬるさに反して、街灯を映している白い車体、セダンの少し大きなフォルム、そして空調で冷やされた車内のにおい……。映画のワンシーンのように格好よいです。

睡蓮はヒロイン足元に葉を侍らせ  渥美ふみ
沼に浮かぶ睡蓮の花の色はひときわ目立ち、崇高な美しさがあります。 「侍らせ」が、他者に媚びることなく凛と咲く姿をきれいに表していると思いました。

退院のわたしの目を射る百日紅  上塚功子
まぶしい色合いの百日紅が、外に出た作者にはよりまぶしく映ったのでしょう。 百日紅の鮮やかな姿が、退院する作者の心情に呼応しているようにも思えます。

靴下足で脱ぐことを盛夏の図にする  紺良造
夏の暑さはひとを少しだけ怠惰にしてしまう気がします。 手で靴下を取ることも面倒になってしまう思い、暑くなった足を早く空気にさらしたい思い、どちらも暑い盛り ならではの感覚ですね。

【正木土昜】
ひぐらしが熱帯夜をこじ開けていく  高橋毅
特選:ラテン音楽(セルジオメンデスとか)のイントロが聞こえてきそう。スリリングな予感。「蝉」でなく「ひぐらし」なのがちょっと哀愁もあっていい感じ。

みんな胡馬でかえってしまうよ昼ちちろ  高橋登紀夫
定型の俳句や短歌ほどポピュラーでない自由律ですが、「こういう句があるんですよ」と胸を張って人に勧めたくなります。センチメンタルのさじ加減が圧巻。

あいつもみとめるビールと枝豆の相性  小山智庸
下戸のわたしもみとめます! 異議なし。

孫が帰ってくる何度も外へ出てみる  斎藤房子
ついそわそわしてしまう感じ、まっすぐな表現に気持ちが洗われます。

夏帽子ハンサムといわれたい  高橋毅
おしゃれの素直な原点ですよね!

【風呂山洋三】
人に押され花火の町を出る  菅原櫻子
特選:小景から大景へ。人の動きからもこんなふうに詠めるのだと感嘆いたしました。面白い句です。

歯けずる音域が見えてくる  中島進
目蓋は閉じているのでしょう。実際には歯科用ライトなのだと思いますが、あの光をキーンという高音に喩えたのだと思いました。いずれにせよ聴覚を視覚に変換するとは、実に面白い句です。

なにやら体がつぶやく反骨  原鈴子
バキバキと身体が鳴ることを捉えた句ではないでしょうか。「反骨」とカッコいい表現です。リズムも良い。

石段くずれ家なき庭の百日紅  若木はるか
同じ街に住む私にとって、よく見かける日常の景です。崩れたままの石段と家の取り壊された庭。それらと相対的な百日紅。こうした景から私は生命の力強さを感じてなりません。

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