「海紅」ごくせん~十一月号より

【今月のごくせん】

山ひとつ騒がして八月の蝉  渥美ふみ

【梶原由紀】
金木犀おちて小さな星となった  小笠原玉虫
特選:金木犀の華奢なかたちを、「小さな星」とした見立てに脱帽です。落ちることで花の役目を終えた金木犀が、星へと生まれ変わっていくのですね。繊細で、とても美しい光景です。

落鮎の川の石いずれもまるく  高橋登紀夫
水流に削られた石と落鮎とが共鳴している印象を受けます。また、「まるく」のひらがなが素敵です。石の質感だけでなく、作者の慈悲深いまな ざしをあらわしていますね。

お月様隠れた お団子食べるの 今でしょ  都丸ゆきお
一字空けが効果的だと思います。時間を挟むことで、少し迷っているような、月の様子をうかがっている仕草が浮かんできます。「今でしょ」の冗談めかした言い回しも、かわいいです。

山ひとつ騒がして八月の蝉  渥美ふみ
蝉の騒がしさの質感が、的確に表現されています。まさに山全体がうなっているような煩さです。また、蝉のエネルギーに相乗して、八月の山のどっしりした様子も伝わってきます。

秋立つ肌に残った少女の水着あと  小山君子
きれいに日焼けすることは、肌の美しい少女の特権だと思います。日焼けは夏の光景ですが、褐色の色合いは秋物の色を感じさせますね。

 

【正木土易】
サンダルしまう夏にピリオド  若木はるか
特選:気づいたら秋…というのではなく、作者の主体性を以て夏に終わりを告げている。海紅俳三昧に投句された作品ですが、改めて冊子で拝見したら簡潔さが輝いて見えました。

弱音は見せずなくてはならぬ八十二才のギター  森 命
ドン=ウイルソンとあります。聴いてみたくなりました。海紅でいうとかも川吟社の方々ですね。ついでに中日ドラゴンズの山本昌も好きです。かっけぇ!

手をつなぐ髪のカールに風のせて  原鈴子
お孫さんでしょうか。細く柔らかな巻き髪がゆれている。そっと手をとる。永遠が一瞬に凝縮されているような輝きを感じました。

頼まれたことに励み風ここちよく  菅原瓔子
ひとの役にたてるということは本当に素晴らしいことだと思います。憧れます。…という事は、自分、ひとの役にたってないなと気持ちが沈みます。今やってることで精いっぱい…を脱出したら、そこにはここちよい風が吹いているのでしょう。

こさめふるせみもまけていない  あきら
簡単そうに見えても、ああっ…すごい!と感嘆してしまいます。確かにいつか見た景色なのです。

 

【風呂山洋三】
踵意識して仰ぐ秋の空   河合さち
特選:お年を召されると、個人差はあるにせよ次第に腰が曲がっていくものです。空を仰げばそのままひっくり返ってしまう心配もあります。しかし、それでも尚、仰がずにいられなかった「秋の空」。「踵を意識して」というフレーズに、実感がこもっていると思いました。

山ひとつ騒がして八月の蝉  渥美ふみ
大音量の蝉の声が聞こえてくるかのようです。そうして「八月」が終われば、元の静かな山に戻るのでしょう。

秋刀魚無くても秋はくるだろ   河合禎
突き放したような言い回しが絶妙です。どんなシチュエーションでの句なのでしょう。想像するだけに可笑しくなります。

ふとんも干しました秋よいらっしゃい   斎藤房子
恐らくは「秋晴れ」を待っているのでしょう。こういう秋の迎え方もあるのだと感服しました。

やっぱり桜の古木のやつが一番元気な鈴の音だ  若木はるか 
恐らくは鈴虫が鳴いているのでしょう。そこに「桜の古木」など用いられると明治・大正あたりにタイムスリップするような気持ちになります。口語体も効いており、ストンと心に落ちてきます。

 

(風呂山洋三)

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