【近 作 玉 什】
六月号
五月号作品より 中塚 唯人薦 ―碧 空―
白蓮の空その空の青いこと 伊藤 三枝
噛みしめた朝のだれもふまぬゆき 大川 崇譜
小米花散らす少しおくれた言 大西 節
声も無い路地で自転車を磨く 加藤 晴正
地中ぬくぬく土筆の潜望鏡 上塚 功子
菜の花を両手でつつむ暖かさ 空 心 菜
ハイボールのしゅっはしゅっはに溶ける切なさ 杉本由紀子
買物はリュック味噌醤油腰にくる 千田 光子
春色を待って少女は飛翔する 原 鈴子
じょうずにこわれたいじいさん 平林 吉明
日輪に手を伸ばす私朽ちていく 松田 寛生
妻叫ぶ「髪切り過ぎた」と乙女顔 三戸 英昭
波ゆられ海藻らにぎわい春近し 森 直弥
ウグイスに口笛でこたえる山裾川沿い 森 命
七月号
六月号作品より 中塚 唯人薦
―もらい物―
夜中の雨からだの奥でひびく 安達 千栄子
蝶川を渡ってゆくその先の春 伊藤 三枝
桜さくら雨の試練を受け入れる 上塚 功子
いつも素直で答えてくれる満天星とアマドコロと 河合 さち
今年も洗った亡夫のベスト桃が咲く 清水 伸子
繰り返し繰り返し肩を叩く春の雨 杉本由紀子
月光を浴びて猫の溶けゆくばかり 松田 寛生
古くなった昭和の硬貨 無 一
芋持って行きタラの芽もらった祭り前 森 命
モッコウバラの勢いちょっと拝借 吉川 通子
今月は十句とします
八月号
七月号作品より 中塚 唯人薦
―夏のお出かけ―
海辺の初夏レモン色のペディキュア 伊藤 三枝
思い出は無いけれどよそのお母さんのカレーライス 大川 崇譜
旧友と「。」の無いおしゃべり 加藤 晴正
緑の日三百六十度から若葉の息吹を浴びる 上塚 功子
細くなった髪そっと櫛を通してさあお出かけ 小籔 幸子
寒暖差背伸びしてる石段のスミレ 清水 伸子
強風洗濯物目一杯揺れ 千田 光子
悩みやぐちやら喫茶店の片隅 中村美代子
眠気に誘われて押したキーが続けざま 原 鈴子
今年も生かされてうぐいすの声 無 一
今月も十句とします
【巻頭句】
六月号作品より
みやげ話 川 根 小籔 幸子
しなやかに伸びする猫を横目に硬い体のストレッチ
もくれんの花天に向かって舞い上がる勢い
帰ってきたツバメみやげ話が止まらない
わらびの頭に蟻春の喜び語り合っている
汗をかきゴックン山の水に元気もらい
山吹の花明るく照らす夕暮れ
傘寿の会それぞれの傘さして又一歩
おにぎり 倉 敷 原 鈴子
クローバー四つ葉ポロリと手帳の過去
背に雨つぶ庭の春草のざわめき
ほこり積む棚の写真が笑う
バッグのなかにおにぎりひとつ駆け込む改札
同じこと聞く同じこと答える春日向
山吹の濡れるしだれる音がする
モッコウバラ未完をおおいつくす
七月号作品より
かたつむり 西 宮 松田 寛生
口を開け死んでいる野鼠春終わる
少し病む同僚の眼鏡が歪んでいる
転職を考えていると蝸牛這っている
目覚める度に青い月
仕事を休んで初夏の海
差し入れの缶コーヒー風薫る
自分から逃れられないから猫を飼う
五月の空 東 京 吉川 通子
雨の月曜日は憂鬱って歌もある
薔薇の足もと出番待ちアジサイ緑の蕾
姉を訪ね不忍池の緑に埋まる
薄桃の花可憐ブラックベリーの実急ピッチ
ジャカランダ花咲かせたかマウイの島遠い
雲がぐんぐん煙突の煙り呑み込んで夏朝
美味しいパン屋へ歩け歩け五月の空
八月号作品より
ドクダミの白 香 川 大西 節
小雨となる集落どくだみの白い静寂
朝市の人込み手に振れる梅らっきょ
庭七竈とめどなくこぼす足もと
昼咲月見草夢の續きをひきずり
田植機急ぐ畦みち狗尾草足にまつわり
白花螢袋雨にこもる予報ききのがし
雨に煙る落人の里坐像仏清し
梅ジャム 福 岡 清水 伸子
来るたび見るたび大きくなって夏が来る
海紅届く風さわやかにお隣りの百日紅
老木の梅ジャムになりとり急ぎ宅急便
初めて生った桃二つ仏壇に供える朝
山鳩が鳴いているこれからのスケジュール
どくだみ草に乗っ取られ日々自信喪失