新春譜

正月恒例の「新春譜」です。題材自由、海紅同人ならば誰でも投稿できます。各地の出来事をお楽しみください。今回が今年度の第三回です。

 近作玉什カレンダー             梶原 由紀
 私のようなものがと思いつつ、編集委員を務めております。巻頭にございます近作玉什は、編集委員がそれぞれ持ち寄った選から更に選出を経たものであり、私も毎月候補となる句を選句しています。素敵な句に触れればそれを語りたくなるのが人の性、今回この場をお借りして自身の一年間の選句について述べたいと思います。長さの都合上全てを評するには限界があるため、各月特に推したい一句に絞らせていただきました。ちょうど、カレンダーのようですね。

【一月号】
  イエローオーカーの絵の具がまだ欲しい並木道  杉本ゆきこ
 イエローオーカーの一言で美しい黄葉の風景を表しています。「まだ欲しい」のなかに季節を慈しむ思いが込められている点も、素晴らしいです。
 二月号分は、入院につきお休み致しました。なお、現在は元気が有り余っているほどです。
【三月号】
  手編みの手袋らしい右手を拾った雪道    森川 チヤ
 「右手の手袋」とせず「手袋らしい右手」とすることで、右手がそのまま落ちているような生々しさがあり、持ち主不在の感慨が強まります。シュールレアリスムの絵画のような美しさです。
【四月号】
  楽な生き方できそうな冬三日月のすらり   岩瀬 憲一
 冬の三日月の鋭利で浮世離れした様子と「楽な生き方できそうな」実感が調和しています。澄んだ空のように整った心持が「すらり」に表れており、佇まいが美しいです。
【五月号】
  昨日までふとだまされていた春       大西  節
 春の実態のつかめない感慨が、「ふとだまされていた」と端的に表れています。全体の音が柔らかい点も、春らしさに相応しいものとなっています。
【六月号】
  武家門あけてあり一本の梅白し       高橋 登紀夫
 重厚な武家門から直線に視線を動かすと清楚な白梅が一本佇まっており、構図が大変美しいです。明暗・濃淡・剛柔の対比が武家門の力強さと梅の気品を見事に表しており、お手本としたいです。
【七月号】
  夕暮れの空から鎮痛剤           平林 吉明
 日中の疲労、苦悩、人間の願いが、夕暮れの複雑な色合いに重なります。暗い雲は日中の痛みであり、夕陽は痛みへの施しではないでしょうか。生きる苦しみと希望が「鎮痛剤」に込められており、夕暮れの景も相まって大変美しい句です。
【八月号】
  あれは宇宙船どくだみ闇に十字花      小山 智庸
「宇宙船」は意外な表現でありながら、闇の中に光る白い花弁に説得力を与えています。写実印象ともに、どくだみの花の特徴を見事に言い表しています。
【九月号】
  臨月の娘と歩く夏の陽沈むまで       吉川 通子
 周囲の話から、お産は嵐の夜を生き抜くような壮絶なことと感じます。暑い日没を経て出産に向かう娘へ、寄り添う覚悟が句にはあります。美しい覚悟には娘へ孫への慈愛が込められています。
【十月号】
  笹かざり友がいじめられませんように    高橋 和子
 笹かざりの願い事の意外性が、句の魅力となっています。直接は力になれなくとも友を気遣う心情と笹かざりの揺れる姿が伴って、美しい景をなしています。
【十一月号】
  青芒だからもっと風に逆らいなさい     菅原 瓔子
 青芒がいずれ枯れてしまうという無常が、前提にある句です。人生の限りへどのように向き合っていくか。青芒の姿には大変考えさせられます。
 以上、カレンダーを取るようにそれぞれの選句に再び触れさせていただきました。責任を持ちつつ、二〇一七年も選句に励みたいと思います。本年もたくさんの素敵な句に出逢えますように。