各地俳況2

海紅社句会レポート        吉川 通子
  新型コロナウイルス感染拡大のニュースに落ち着かない中、元気なメンバーで、大粒栗入りの羊羹を頂きながら幸弘さんの披講で始まりです。

気弱だがメガネ街頭で洗う         晴 正
 男性陣が大賛成。作者の姿や、内面的なものまで見える。待っている時間の気持ちが見えて来るね。店先でメガネを洗う時の様子が分かって納得です。

いっぽんのロープへ吊るす何度目の春    幸 弘
 幸弘さんの新しい生活の覚悟との見方と、「いっぽんのロープ」が厳しい想像をする、「ロープへ吊るす」が抽象的と言う見方。作り手の意識と読み手の受け取り方が違うことはある。読み手がどう読んでくれたかを考えて作り直してみる、読んでもらうことを意識して句を考える、そういうことも大事ではと言う話が出ました。

白いマスクが一番しゃべっている      ゆきこ
 マスクの中に隠れている人が快活に喋れるというところが面白い。今一番白いマスクがしゃべっている。タイムリーな句だな。

生きているゴミを捨てに出る        吉 明
 生きているゴミが面白い。それは何かしら。生きている、で区切った。生きているからゴミを捨てに行くと思う。飽食の時代のことのようにも感じた。

朝陽があぶり出す昨日の痕跡        通 子
 痕跡がわからない、もっと具体的に言った方がいい。自解すると、朝陽が照って見せたガラス窓の汚れに驚きこんな句にしましたが、考え過ぎました。

北の富士さん遠慮しました。 照ノ富士より 唯 人
 北の富士が以前、十両全勝優勝の力士に「金一封」を出したことを知っての句ですが、照ノ富士が初日から十三連勝した時にテレビ中継でも話題になり、こんな句があっていいねと盛り上がりました。

 

海紅社句会小景         平林 吉明
昭和五十四年 秋
日の暮れ残る世田谷区駒沢二丁目
炉の切られた座敷にひとり上がり込む
まだ誰もいない八畳間には座布団が並べられ
これから始まる句座を待ち受けている

硯に水を足し墨を摺り始めていると
飄々としてハンチングの多加士さんがやってくる
ベレー帽の落ち着き払った騾子さん
にこやかに「ヤア」と片手を挙げて利三郎さん
俯き加減の寡黙で朴訥とした光夫さん
続いて穏やかな笑顔のまさるさんが入ってくる
利三郎さんが煙草に火を付け空間を見つめている
多加士さんも煙草をくゆらせている
そこへ息をきらして耕司さん

八畳間は沈黙と煙草の煙に朦朧としている
一思さん、栄一郎さん、武夫さん、季之さん、三滝さん
厨から梨枝夫人の声が聞こえている
梨枝夫人の淹れた濃い目の日本茶に一つの和菓子
床の間には一碧楼や細木原青起による
四季折々の書や絵が掛けられ
河東碧梧桐による「一碧楼」と書かれた額が
見下ろすように出迎えている

いつの間にか座の中心に檀さんがどっかり座り
その日の句会は始められる
各々が手に筆を取りおもむろに句を書きはじめる
句を書き綴たためた半紙は流れるように廻りだす
各々が好きな句の下に己の印を記す
厳かな儀式 

揺るぎない自信に満ちた檀さんの披講がはじまる
忘れることの出来ない神聖な時間であった

 私が散歩する新田田井台の横を流れる呑川です。都会には珍しく川には草が生い茂っています。
いま菖蒲が満開です。