各地俳況2

 海紅社句会レポート           中塚 唯人

 四月二十一日、今回は新人の木内縉くんと大迫秀雪(しゅうせつ)さんが参加され温くんも飛び入りで十人の賑やかな句会となりました。進行は私が務めました。当日は半袖でもいいぐらいの夏の陽気でした。

※の字とれかかりつつある米屋      縉
 まずは二十四才の若者縉くんから。最初の「※」は米と読みます。古いお店だと看板の文字が消えていたり独特の文字になったりするものがあります。そんな店でも不思議と儲かっているとは見えなくても、地元と密着しているのか長く続いています。そんなノスタルジックな句を詠む彼は文学青年ですね。

碧梧桐絶筆「竹樹修茂」

 

寝起きの顔のまんまで春だ  秀 雪
 建築現場で働いているのでなかなかワイルドでねじりはちまきが似合いそうです。
 この顔は誰しょうかと考えていくと「で」がいいですね。「の」だと最後が「だ」と断定的なので春が主役になります。しかしこの一文字を変えることによりご子供さんかも知れない、咲き始めた桜でも自分でもいい、いろいろなイメージが膨らみ人間愛が滲み出ています。「で」を選択したのは非凡です。

 

 


胡蝶おいかけ四月の書庫          直 弥

 胡蝶は単なる蝶よりも優雅です。故事成語や歌舞伎や能、源氏物語の巻名にもあります。まるで夢の中で優雅に舞っている蝶が書庫に入っていく、他に置き換えれない四月も利いています。心持ちの良い句です。

つなぐ手のすきまから菜の花                         ゆきこ
 ジェラシーを感じるぐらいな幸せな光景です。ただしこの句の最大のお手柄は、最後に「菜の花」としたところです。「つないだ手」よりも幸せなのは「菜の花」と主客を転換させたところです。お見事でした。

白いはなみずき笑えば淋しい美女だった   聡
 立て板に水のようにサラッと読み下してしまう句ですね。散文的なのですべて「白いはなみずき」の説明に読めます。作者自身は「白いはなみずき」のあとでキレを作ったつもりのようです。それが上手くいってなかったようです。

春横なぐり安くなったキャベツの重さ    崇 譜
 たしかに冬には葉っぱものが高くてお鍋の材料に苦労しましたが、漸く安定してきたようです。そこを主婦感覚で「キャベツの重さ」と実体験しています。「重さが」利いています。「春横なぐり」あたりが一考して欲しいとの意見もありました。

県営団地ハナミズキ老人いっせいに     吉 明
 今や海紅社句会でも長老の範疇に入ってしまった吉明くんは現在資格を取って老人介護の仕事をしています。その日常の一コマを読んだ句です。
この句は「県営団地」「ハナミズキ」「老人」「いっせいに」と四節に分けることが出来ます。この並びをどう捉えるかです。「県営団地」と「老人」が付き過ぎの感がある、片仮名を挟んで少し和らげるなど。よくみると「七」「五」「四」・「五(四)」となっています。来空氏の答時拍リズム論から言うと「七・五・四」とだんだん字数が短くなる、ところがこの三節の語音は日本語では同じ拍数で読む性質があるので、七音は速く、五音は少し速く、四音はゆっくりとなるのです。従って「けんえいだんち・ハナ ミズ キ・ろ う じ ん」と読まれるのです。したがって老人がゆっくりとなり、そして「いっせいに」と少しだけ速くなる。そこでしぜんと「ハナミズキ」と「老人」の間にキレができるのです。これが五七五が俳句に適していると言われる所以です。
本人は意識しているかはわかりませんがこの句の特徴です。

ポンと三月をリセットし今日から女子大生 唯 人 

「三月」か「今日から」は省けるのではという意見が出ました。
駒沢大学は坊さんの学校だと思っていましたが今や女子大生が多いのです。そんなキャピキャピの女の子を詠んだので両方必要と思いました。

特快新宿まで前のめり夏            由 紀
 最後の句です。中央線の「特快」に乗ったことのない方にはわからないかも知れませんが、新宿から西へ立川まで一直線ですから速いです。

維新150周年世田谷線「招き猫電車」