『 平成二十九年海紅全国大会詠草集 』
1 鴉おまへと笑つてすすむ 小笠原玉虫
2 淋しさだけを奏でるふたりの弦楽器 平林 吉明
3 陽が雲へゆっくり春がたなびく 石川 聡
4 木蓮の花びら踏む春は消化試合 森 直弥
5 明るい光がもう春なんだ 若木はるか
6 忘れることもある読み返す本の染みと赤線 森 命
7 父も居た春めく現場の靴下 本間かもせり
8 悲しみ花になり雪になり消えてしまった 若木はるか
9 鍋あきるころ猫はこたつでるころ 大川 崇譜
10 酉年に三(さん)水(ずい)つけ酒年よい年酔いよい 折原 義司
11 中学生の死ねと大好きの狭間 杉本ゆきこ
12 春一番あなたでいっぱいになる 平林 吉明
13 春の風なぜ顔をしかめたの 村井 洲
14 春の温度カラスの服も菜の花色 杉本ゆきこ
15 週に三日は軍鶏となる佳き日 小笠原玉虫
16 終点の駅舎春だけ見ている 本間かもせり
17 受けて立つしかなかろう北風 村井 洲
18 遮断機の向こうがわ子供も猫もサラリーマンも 西藤 広太
19 指先から綴る言葉のせ電車は 森 直弥
20 桜餅でこぼこを許す 梶原 由紀
21 霜柱突き上げる昨日のこと忘れ 大西 節
22 開口一番の語を並べ粉雪とすごす待ち時間 森 命
23 桜咲いてもハナニラの純情には敵わない 中塚 唯人
24 桃の里疎開で居着いた家もある 紺 良造
25 モードに弱いムードはチョコバトル 河合 さち
26 萌えるものへつながる一本の輪ゴム 小山 智庸
27 目分量で淹れるコーヒーが朝の平穏 渥美 ふみ
28 まつぼっくり拾いまた拾い近道が遠い 原 鈴子
29 ぽたっぽた氷柱つたって春がほら 吉川 通子
30 冬空深まれるほどの青に生きる 小山 智庸
31 福寿草ほころび小角の太陽 岩瀬 憲一
32 春一番スーパーの焼芋食べる幼児のホッペ 小山 君子
33 年齢(とし)重ね多からず少なからずの家事 渥美 ふみ
34 虹をぬけたら雨 この先に春がいる 安達千栄子
35 にがっ！ 蕗の薹が味噌汁の中で怒っている 上塚 功子
36 流れ雲の先に春をみている 岩瀬 憲一
37 チョコレート春を舌にのせ 石川 聡
40 チェンソーで大樹切る男の血が騒ぐ 折原 義司
41 チーズパンこんがり焼いてパリッと四月 福田 幸子
42 大木一本ゆるがずずっと連れ添った夫婦がいる 渥美ゆかり
43 空に道あり孤独な鷺が田に降りる 紺 良造
44 素手は鍵の入ったポケットに冬枯れをゆく 渥美ゆかり
45 スズメもセキレイも太ったな雨水だってさ 田中 耕司
46 額縁ひとつ傾ぐ春の誕生 梶原 由紀
47 少しある風の日は菜の花にむせぶ 大西 節
48 ざらついた風吹く少しだけ空を見上げる 安達千栄子
49 ゴミあさるカラスが変な声花粉症なんだって 田中 耕司
50 ご贔屓の力士もいてこの地ふる里とする 吉川 通子
51 五軒目の味届く友のシモツカレ 小山 君子
52 くどくどと言われ春二番の到来 原 鈴子
53 くたくたノギスがかばんにはいっている女 大川 崇譜
54 風に一輪蝋梅の呼びとめるきら 福田 幸子
55 海棠の花あたたかき地をいう 中塚 唯人
56 お雛御髪上げつつ一人意気込む 河合 さち
57 オオイヌノフグリに知らん顔の犬に引っ張られ 上塚 功子
58「あのね、あの、、その…」春 西藤 広太
59 戦後七十年震災後六年生きるむずかしさ 伊藤 郁子
60 ユリの香食卓に深呼吸 伊藤 郁子
