各地俳況

六月号作品より

赤壺詩社 お花見句会(倉敷)四月一日 田和公園
ぼんぼり吊るす花待っている軍人墓地            節
病はいえた一か月ぶりの酒のうまいこと          あきら
サルトリいばらの新芽やさしく瀬戸の凪          順 子
話はずむ宿は知らない顔ばかり              多計士
轟音を引き連れて瀬戸を渡る貨車             幸 子
長い冬おわり長い菜種梅雨                きいち
沈丁花枯れて猫はよそ見する               知 子
三・一一黙祷の向うに春少し              としかつ
貸本屋町まで走った幼い日                洋一郎
素肌に浴衣砂の温もりと波の音              秀 子
空よりも青いワンピースで春を奏でる           みほこ
からんだ脳内さくら情報                 鈴 子

サザンカネット句会(渋谷)
       四月十四日文化総合センター大和田
君はカヌレだけど食品サンプル              智英実
卒業の日まなざしより遠く伸ばした指先の凛々しさ     祥 子
まず貝より始めよと云われたからホタテ          色 正
げっげっげっげらギター掛け声は良し            凛
しあわせの残りマキタのブロワー             崇 譜
雪柳ち、らし、て、く雨                    あづき
ジャジャーンジャンジャン横丁じゃん              暗 渠
「猫踏んじゃった」表面張力をいたしかゆし                       とつき
コートの背中まるまる津軽弁                              吉 明
影のない塔の先に春泥                                                                  ポピー
ヒナゲシのまっつぐな立ち姿背筋のばそうぜ                          耕 司
光合成に頼んでみるか                                  叶
献血できないわたしの極彩色                                                         の あ
陽炎いちまい破りひばり                                 聡
白い靴を履いたまま大人になると言うのだ                        啓 斗
恋棘て金平糖を噛み砕く                                   清 瀬

阿良野句会(浜松)四月十五日      加代居
座らないと発車できない路線バス                         美代子
新茶の注文始まる静岡の茶                            千栄子
春の味籠いっぱいの筍糠も付いて                         加 代
亡き夫と今も記憶に残る押し問答                         愛 子

 しらさぎ句会(東京)四月二十・二十一日  テレ句会
桜さくら雨の試練を受け入れる                          功 子
見つけた橙色のナガミヒナゲシ世田谷生まれ                    通 子
誘いに乗って歩いた満開の一日ありがとう                     さ ち
ホーホケキョ日に日にスムーズ高らかに                             毅

 さん橋句会(逗子)
       四月二十一日 逗子市民交流センター

さくら撮る自分に酔っている                           清 仁
色踊り風踊り春踊る                               夕香里
ピンクと薄紫のランドセル弾んでスキップ                     由紀子
花壇で写真群れなす春日                            のりこ 
花ごと落ちる椿の質量                              清 仁
チャドクガコワシサザンカセンテイ                        夕香里
ノンストレスがいいねラインの連絡帳                       由紀子
優しかった君サヨナラ春爛漫の夜                         のりこ
春の雨優しい生きてゆける                            清 仁
予期せぬ雨に腹立てる                              夕香里
頭の中ふかふかどこにも行けない旅に出る                     由紀子
蕗の葉喘ぐ春の嵐                                のりこ

ネット句会「海紅俳三昧」四月より

公園カメ寝坊して桜もう終わる          幸 三
 この光景はよく解ります、作者も春の暖かさを楽しんでいるようです。幸三さんは今年も美しい桜をカメラに収められたことでしょう。

草餅と桜餅を前に目が悩んでいる         千栄子
 二択のような作り方ですが、ダイエットに特に気をつけられているかた以外は、両方食べられることと思います。ただしその後は散歩にでも出掛けましょう。

青広がって多摩川左岸からの海          晴 正
 「青空」と海をもう少し近づけてはどうでしょう」と言う問いに晴正さんは

多摩川左岸から空溶け合って青広がる海
 これは「溶け合って」が説明的です。ここをもう一度考えてみてください。

あなたと見たのは去年のさくら空の高さよ     通 子
 先ずはご主人様のご逝去をお悔やみ申し上げます。こういう深い悲しみは他人にはおもんばかれません。早く元気になって軽快な通子節をまた聞かせてください。
花の中に文金高島田               寛 生

「下に」ではなく」「中に」としたのはお手柄です。このキモが解れば達人の域に一歩近づきました。

山椒の芽が出て筍に会いたいとさ         唯 人
「筍」にするか「たけのこ」にするかで迷いましたが、そんなことよりも「山椒の芽が出て」をいいたかたので、最初の発想の「筍」にしました。あまり上手くやろうとか良い句にしようとするよりも最初の思いを大切にしたいと思います。

 

七月号作品より

赤壺詩社句会(倉敷)五月六日児島市民交流センター
山桜一樹遅れ咲く春さむ                  節
定植された野菜やさしい雨                あきら
土筆ん坊三本彩るハガキ                 順 子
山はおだやかクラシックカーならぶ自慢顔         多計士
桜東風制服の出荷急ぐ街                 幸 子
悔しさも救われる今日の青空               きいち
地面まで三秒ばかり花は旅する              知 子
団地百軒時間が止まり昼下がり             としかつ
梅の木にみかんの輪切り小鳥まつ             洋一郎
高校野球一喜一憂大きな歓声               秀 子
ヤブテマリ手まりする子どこにいる            鈴 子

 

 阿良野句会(浜松)五月十三日      加代居
伸びきった松の新芽やっと摘み終わった          美代子
やっと揃った祭りラッパ明日本番             千栄子
花博賑わっているみんないい顔              加 代
駄句捨てても悔いのこる                   愛 子
 

しらさぎ句会(東京)五月二十・二十一日 テレ句会
軽鴨何処かで子育てユウゲショウ桃色           功 子
あきらめて書類とにらめっこする五月雨          通 子
今年も千葉へ送るタイミング杏は薄黃みどり        さ ち
八十六歳余り二か月念を入れて花柄を摘む          毅
 

 

サザンカネット句会(渋谷)五月十九日
            文化総合センター大和田

夢に見た少納言の耳にはピアス              智英実
死に場所に四葩                      叶
あらゆる虚数にお花畑をおねしょ             とつき
ポピーポピーポピーポピー絨毯爆撃            暗 渠
流転する二千円札と共に                 祥 子
海より塩辛い円の中の男たちの脚よ            崇 譜
燕の巣撤去され東京の暮色                清 瀬
僕の夜の換気扇の音か                  啓 斗
ブラシの木のあの赤いので風呂でも磨こうか        耕 司
雪柳やさしさこぼれてゆくばかり             はるか
文庫本つりかわ江戸川橋じゃ誰も降りない          聡
鳥皮の毛残ってる、もう                 色   正
 

さん橋句会(逗子)五月十九日 
                逗子市民交流センター

イヤホンで竹原ピストルお出かけの鎧           清 仁
耳につきささったばあばのじゃない            由紀子
向かいに座るイイネイケオヤジ              夕香里
ひたすら走る自分は自分                 のりこ
生きている歩ける走るそれでいい             清 仁
何でもない言葉の海に泳ぐ                由紀子
導かれる言葉に未来へと                 夕香里
御岳から走水へ風薫る                  のりこ
水のようになりたい見果てぬ夢              清 仁
たったひとつの色重ねる透明水彩             由紀子
透明な寒天の中にある景色                夕香里
景色を観るマイ茶碗                   のりこ


ネット句会「海紅俳三昧」
五月
 五月の「俳三昧」より取り上げてみます。

こいのぼりもう消えた校庭に風も無く   幸三(東京)
 昔栃木の氏家に出掛けると大きな鯉幟が青空に大家族で勢いよく泳いでいたのを思い出します。
 この句は都会での句ですから今では大きな空を勢いよく泳ぐさまを見ることはほとんどありません。せいぜいマンションのベランダで慎ましく見るぐらいで、近頃では子供の日と五月の鯉幟は子供でも連想しません。ですから尚更大人にはこの風景は余りにも月並みに思えます。
 むかし秋田の草彅猷逸師はよく言われました。「肯定の句を作ったら否定の句も作って見ろ」と。つまり「無し」としたら「ある」でもやって見ろと。肯定と否定は表裏一体だから言い方は違っても同じ答えになるはずと。嘘はいけませんが脚色は良いと井泉水先生も容認しています。
 ここでも「風も無く」をひっくり返し「風は吹く」などの逆転の発想も必要と思います。 

プロ野球開幕ため息つく人もいる    千栄子(浜松)
 この句は誰もがプロ野球フアンの勝った負けたと一喜一憂する姿を想像します。が、作者はご自分が、野球フアンの応援が騒がしく苦手と言いたいそうです。たった十五字から二十字程の俳句の正解を言い当てることは難しいとお解りになったと思います。ですがして説明しすぎて解りすぎも困りものです。それだからこそ句会が必要なのです。そしてそれには多くの意見が必要なのです。 

その一歩探して立ち尽くす       晴正(東京)
探す」前に「踏み出し」て頂けたらと思います。 

残雪馬を描いてその下のみどり     命(岐阜)
 山の下の田圃の緑を言いたかったようですが、「残雪馬」に目が行ってしまったようです。それでも私は飛騨高山の北アルプスに浮かぶ「残間馬」を見てみたいと思いました。 

席を譲られ地下鉄窓ガラスの中の私   通子(東京)
 名詞止めにするとピタッと決まり動きがなくなるのですね。いわゆる定型調になるので、自由律句らしくなるのです。何故そうなるかは考えておいてください。
 まあ「私の顔」ぐらいに少し長くするとその感は薄れユーモアもでると思いますが。
 

黒雲晴れたらすぐ近くにユダはいた   唯人(東京)

 ユダは思いのほか近くにいるのです。彼は意見があっても、疑問があっても、良いことでも悪いことでも自分から喋らずに沈黙を守ります。何を考えているかさえも解りません。こういう人が一番怖いのです。私はやかましいガンコ爺であろうと思い、少し難解な句を作ってみました。 

手に死にゆく蝶の瑠璃となる      寛生(西宮)
 この句は誘われます。少し難解ですが、死を美化しているところは怖いですが、荘厳な気分かも知れません。

 

八月号作品より

赤壺詩社句会(倉敷)六月三日児島市民交流センター
紫陽花雨にうなづく村境                  節
上の畑からひょっこりお互いに耳が遠い          あきら
筍の返礼は豌豆仕合せ夕食                順 子
友が来てたけのこ来て笑顔が来た             多計士
春がすみ島を持ち上げ船の舳先              幸 子
昭和の歌流れる令和の酒場                きいち
ヤマボウシ人憩うベンチに小さな陰            知 子
青嵐揺らして若葉揺れる吾               としかつ
五月来て子鴨が残った山の池               洋一郎
無人駅木曽路を走るワンマンカー             秀 子
一輪の花に教わる誇り高く生きること           みほこ
ぐうぜんのふりして咲く春じょおん            鈴 子
 

阿良野句会(浜松)六月十七日        加代居
半信半疑で買ったビワの甘さ               愛 子
ウォーキングコースは紫陽花ロード色とりどり       加 代

 

さん橋句会(逗子)六月二十二日
             逗子市民交流センター

蛍袋脇目に小走り今日もゆく               のりこ
蛍の光跡戦士兵のレター                 清 仁
手紙届いた彼女の香り                  夕香里
花柄プリント幾何学プリント六月のラッキーデー      由紀子
あじさいの幾何学模様にうずもれ             紀 子
雨降り夏至の日桔梗を生けて               のりこ
青い花怖いほどの美しさ                 清 仁
油断していた姫檜扇水仙蔓延る              夕香里
ほびこる悲しみむしりとる                由紀子
蜘蛛の糸からからめ取る雨つぶ              紀 子
骨広い知る義母の強さ                  のりこ
つめ切る時だけ生きてる私                清 仁
硬い身体に活入れる                   夕香里
するりと抜けたい日々の隙間               由紀子
夜と夜の隙間君と会う                  紀 子

 

しらさぎ句会(東京)六月二十・二十一日テレ句会
未央柳とキンシバイ隣同士黄色を競う           功 子
もう咲く頃アガパンサス白い花も             通 子
焦らす梅雨入り風鈴の音遠のく              さ ち
「なんてこった」規正法議せず改正?されちゃった      毅

 

サザンカネット句会(渋谷)六月三十日
          渋谷文化総合センター大和田
暑いねえ、あついですねえ青ぶどう             叶
モスクワのシングルマザーが煮るキャベツ         暗 渠
女が出て行った 玄関がしみじみ広い              色 正
耳鳴りに歌詞つける                                           聡
夏の雨たぶん自殺はしないと思う                         吉 明
窓放ち  夏の風と  音招く                 奈 々
きっかけは雪平I Hトマトの湯むき              崇 譜
交差点のエイの素通りすれば正午は憧れる         とつき
薔薇の燃え殻が触手を伸ばす               祥 子
白い蝶白い紫陽花すこし翅やぶれている          はるか
剥きたての月ぷるるるんと雲の意図            耳 彦
欠席を丸で囲んでトマトが青臭い             清 瀬
オニユリはそばかす美人背もすらっと高いぜ        耕 司

 

ネット句会「海紅俳三昧」六月合評 
梅の実山盛り今日ジャムの日になる  浜松 安達千栄子
「今日ジャムの日になる」という記念日のような表現。ワクワクしている作者の顔を感じました。

旧友と「。」の無いおしゃべり     東京 加藤晴
 最近の若い子たちの中に「。」の付いた文章を怖がる子がいるとテレビ等で話題になっていました。「旧友」はそのような話とは無縁の気を遣わなくてよいお友達なのでしょう。

光を入れる独りの病室        西宮 松田寛生
 夜の病院の静けさが孤独をより強く感じさせます。月光を招き入れるというような表現が静けさをいっそう引き立てています。

塀から顔を出しくちなし香る        東京 吉川通子
 顔を出すという視覚的な表現と香るという嗅覚的な表現が重なって、より実感を伴う一句になっています。穏やかで、ユーモラスな情景です。

暮れない空にやり残しはない汗と土    岐阜 森   
 毎日の忙しい中にも計画的に作業を進めていく命さんが見えるようです。日が高くなって、作業がはかどっているのでしょう。忙しいけど充実した気持ちのいい時間を過ごしている命さんですね。

カブトムシの幼虫三匹君たちとこの夏を過ごす 東京 太公望
「君たちと」というフレーズがカブトムシの幼虫に親近感を持っていることを感じさせ、和やかな気持ちになりました。自然と人間が共に過ごす初夏の時間を感じさせます。

ことしもアジサイやっぱ律儀だ     東京 湯原幸三
「やっぱ」というフレーズがくだけた話し言葉調で句全体を親しみやすくしています。今年も咲いた!という感動が伝わってきます。句のリズムもスムースで好感を持ちました。