海紅俳句 2

12月号タ~ワ行の方の作品です。
ア~サ行は「海紅俳句1」にあります。
              牛 久  高橋  毅
口先の安倍曰くアンダーコントロール
朝市のおばさん無事か燃えちゃった輪島
法に基づく脱税民は諦念天怒る
法治国家日本国会笊法造りに余念なし
立派なルール守らないダイハツ
政治に金がいる国民喰うや喰わず凍えてる
政治屋さん大地に根の政策を           

              東 京  中塚 唯人
有馬記念名勝負令和五年「戦」を締め括る
カウントダウンにジャニーズがいない不可解なり
アロエの三角冬雲つつく雪だけはご勘弁
誰も来ない神社もあって紅白梅の咲く
足を傷め歩けなくとも腹の減りほろへる
 岡山二句
蝋梅咲いて備後の春は早いお目覚めで
夕日に赤く塗られても一碧樓の碧き冬海 

              浜 松  中村 加代
新年穏やか明けた途端の大地震
松明け又独りになった蝋梅香る
孫の好物厚焼き卵レシピは甘め
おひねり舞った子供歌舞伎の三人吉三
新玉葱届いた春の味シャキッ            

              倉 敷  原  鈴子
あす入院何も持たない冬すさぶ
全く最新のことばに迷走瞑想
若い医師に今日を任せる寒椿
冬草ひらたく絆を信じる
風になびく芒の穂フラダンス
畑土ふんわりスズナすずしろ
枯葉ふかれて鳥になりたがる
              横 浜  平林 吉明
老人ひとり池のほとり
各駅停車の冬に乗る
小さな乳房の主張するおんなの強情
夫婦喧嘩お箸とお椀とお正月
明日の来る感じのしない明るさ
ぬかるんだ冬の雑踏それぞれ残党                        

              西 宮  松田 慶一
乳房の黒揚羽の呼吸する
冬蝶の死は燃えるゴミ
口開けて野鼠が死んでいる
神童と呼ばれし父を風呂に入れる
乾眠のクマムシは蝶の夢をみる
大寒の猫のふぐり縮む
考え事をして雪の終着駅

              周 南  三戸 英昭
山茶花の花びら風に舞い上がる
二人りで座るベンチに雪の華
風寒く二人で巻きたり君のマフラー
芝居観て帰る夜道の風寒し
首垂れて帰る野道の落ち椿
冬枯れの座るベンチの冷たさよ

夢語り二人で歩く並木道かな        

              福 山  無   一
寒さにだらしなく鼻水
うずくまるように凍死した小蜘蛛をゴミ箱
拳ほどの石がわざとらしく車道
たき火の香ばしく氷雨
偉そうな家やらマンションやら増えてゆく
店主と客の女の話が終わるまで待たされる
なんと昔住んでいた地域でも大麻の事件 

              横須賀   森  直弥
北風か山もうずくまる
ほろ酔いに沁み入る白湯
曇天に梅わらう       

              岐 阜  森    命
掃除のあと手品の如く出たなカメムシ
止まり木なくば肩を貸します元日の鳥
この部屋の此処カレンダーの適材適所
明けて窓見る子の顔雪ダルマに足らず
能登の寒い冬時をかまわぬ政界の混乱
おかわりします初観音の甘酒を
雨できた大寒眼鏡買い替える 

              東 京  吉川 通子
記憶あとかたもなく裸木の整列
今日が終わるグランドの向うの夕焼け
マフラー取り出す今朝一際青い空
哀しい顔だったかどこかの子犬が寄ってくる
西へ向かう鳥の列世田谷の空
苺のケーキ二つ一つ歳をとる
真っ直ぐ上がる煙り今日も働いている

              山 形  若木 はるか
霜の朝わたしの輪郭を質す
雪降りしきる紅いサザンカ白いさざんか
ジムノペディ粉雪ずうっと昔のある日の午後
三時は夕方北国の冬
路面きらきら凍る夜の街灯
雪だるま笑っている雪の消えた庭
もったいないこと捨てられないことあなたを縫いとめる針

新年号作品

牛 久  高橋  毅
嘘の数あまたの三権の長お追従三人馘
基金というマジック増税漸く察知
老犬にジーッと見つめられている急に冬
誤って切り落とした蕾おばあちゃんの椿
大カマキリの卵ほんに稲荷ずしの如俄か庭師
ドロ蜂の巣発見この知恵孫子を思ってか
己書というもの厳しくうれし師範は娘

                                     東 京  中塚 唯人
短日の柿を三つ重ねそのひとつを食ぶ
すやすや眠る孫に零れよ秋の陽
枯葉に落ち葉がかさなり冬の深まる
国立劇場取り壊しだと団十郎どこで六方を踏む
枯葉吹き飛ばし冬の抵当権を得る
栗羊羹の置きどころは秋の隣と定める

          浜 松  中村 加代
大人も子供も皆上向き航空ショー
ブルーインパルス旋回紺碧の空に白線
カモメと一緒風を切って清水港クルーズ
やっと登った大きな石段久能山東照宮
楽しみ増えた椿次々咲き出して庭の景
南京はぜ白くなった街路樹も冬の装い

          浜 松  中村 美代子
オレンジ色広がる空今日もはじまる
スケジュールびっしり何かに飲み込まれそう
大きなため息一品料理持ち寄り親族会
毎週末は模試体力勝負の受験生
受験のカウントダウン始まる十一月

          倉 敷  原  鈴子
メダカ出てこない甕のなかにある夢
席譲られて夕焼け空男の子の心根
あれこれ頭をめぐる真ん中が抜ける
当たり前のようにあなたの言い分
病室から鳥の目になる草紅葉
見るごと秋に変わる色彩のマジック
サクラタデひと群が占めるあぜ道ひそか

          横 浜  平林 吉明
折り返すメールに雷雨注意報
身体中じかんの針狂っている
葉山行き座席のあきにズレた靴下
秋の下書き少しの事実と作り話
欲望の駆け込み乗車
所詮偽善者メトロノーム
捨て台詞生まれた町のせいにする

          西 宮  松田 慶一
胃の中の十字架に雪降り積もる
冬蝶が日輪を目指し翔んでいく
月の夜アスファルトから伸びる腕の影
暗渠が次々に落葉飲み込む
裏通りに狂い咲く山吹の黄色

          周 南  三戸 英昭
西風に金木犀の香混じりおり
夕焼けに金木犀の花光りおり
青空に金木犀の色艶やかなり
艶やかに金木犀の花散りしきる
車屋根金木犀の花降り積もる
とこ知れず金木犀の香訪れぬ
遊び着に金木犀の花こびり付き

          福 山  無   一
こちらの覚えている事を忘れるお役所だった
愛車のカーナビにキレている
マンションの掃除のむなしさを掃いて取る
体に良さそうで不味いお菓子だった
血の騒ぐ久しぶりの事
あきらめて変人の一人
つらい事ばかり思い出す氷雨

           横須賀  森  直弥
大根畑は葉の海原よ水平線に富士
空高く青は澄み鳶弧を描く
日の出を迎え春と成す

           東 京  吉川 通子
花屋に一本の吾亦紅よみがえる九重の山
狗尾草ころころ風の音
暑い寒い繰り返し秋通り過ぎた
一気に冷たい空気朝の窓を開ける
紫のビロードの肌触りシコンノボタン
あれあれ富有柿じゅくじゅくだ
出遅れたイチョウ黄葉もうすぐ早慶戦

           山 形  若木 はるか
かわいいと知っているまなざしダリア大輪
もみじ紅青黄いろ陽の角度
秋の羽虫ひらめく昼の星として
紅葉の山々渡ってゆく雲間のひかり
山茶花さざんか想い出はちょっとだけ苦い
笑いながらあなたと歩くツワブキの黄いろ
失くしたものは戻らないシュウメイギクの風

 

二月号作品

                                         牛 久  高橋  毅
議員さん意味半可通字は読めず
選良先生に非課税所得我ら民草税に泣く
寒むけれど愛犬アズミと枯野描く
ユーチューブで剪定学ぶ余命あればだが
石蕗不揃いの花びらで咲き終わす
千両の実赤く輝くふっと寒冷紗
朝5時枯れ葉掃くやせ我慢

                                           東 京  中塚 唯人
蓮田にエンジンぶるんぶるん北風に吠えた
木守柿つつく雀たちの世間話ああかしまし
朝ぼらけボロ市告げる今年の花火やけに大きく
かぼちゃ食べず柚子湯も浸からず雪見大福食べた
夢運ぶ有馬記念名勝負今年を締めくくる
足を思いっきり伸ばして眠るんだあーたんのクリスマス
初春はきっと大きな〇書こう

          浜 松  中村 加代
小春日続く水仙すっくと夜の隅
年末大根安くなったスーパーの目玉
気付けば柚子も色付いてもう年の暮
柚子味噌柚子大根暮の手仕事母の味
こんなに星が多かったのか今夜新月
はるか大島手足のばして波の音

          浜 松  中村 美代子
とりあえず換気扇ピカピカ
黒豆炊いた甘さ控えめ
見つけた図書館主はイケメン
お目当ての本すんなり見つかった

          倉 敷  原  鈴子
咲きはじめたツバキ全身でひかりつかむ
寒波くる予定しばしば凍らせる
荒れ地となった里山の草紅葉ゆめみる
まだいた冬の蝶のそこは日だまり
角曲がれば吹きっさらしの道わかっている
入院決める透きとおる日つづくのも
それしか道がないならそれが私          

          西 宮  松田 慶一
父の杖止まる、寒椿
極月の原爆ドームの暮れる
魚屋だった家に注連飾り
河豚を食べ始めて愚痴止まる
父と母のみ老いる家
朽ちてなお鳥居
足跡一人の雪野原

          周 南  三戸 英昭
雨に濡れ山茶花の花淑やかに
窓の外山茶花の花華やかに
山茶花のはなびらひとつ風に巻い
白もあり赤もピンクも山茶花は
はなびらの風に舞い上がる山茶花や
山茶花の水面に浮かぶはなびらよ
山茶花の川面にひとひら流れゆく 

          福 山  無   一
癒えない昔の傷の眠れないまま夜明け
赤っ恥のポストに投函した後で気付く
路上にうつ伏せの雀を拾って墓地
絵のような景色がよその窓
訪れた小さな町にたくさんの史跡
底冷えする真っ暗な海にぽつんと漂っている
切り捨てられた木の葉のあがきを冷ややかに風 

          横須賀  森  直弥
火を焚き湯を沸かし人来たる
夕日に鯊踊る釣り針の先
餅つき会ふるまい餅のびる列

           岐 阜  森   命
未知の世界へリンゴをかじる子
冬枯れにささやかですがと川の音
雪は祝いの席を知って降るのさ
師走の義兄ははにかみのサングラス
娘三人分のアルバムこの家冬陽さす
枯れ野の一角寒は楽しいか鳥の群れ
赤い実がいっぱい少女の進路決まり来る 

          東 京  吉川 通子
紅葉黒ずんで見せる曇り空

今日が終わるグランドの向う夕焼けて
イチョウ黄葉見上げサクサク黄色の絨毯
マフラー取り出す今朝一際青い空
哀しい顔してたか何処かの子犬が寄ってきた
西へ向かう鳥の列世田谷の空広い
メリークリスマス届いたピンクのシクラメン

                                        山 形  若木 はるか
秋の額縁に何を入れようか
あなたにはあなたのいろ蔦紅葉
そっとしておいて山茶花こわれそうだから
迷子の顔で師走
紅葉の山の奥は雪の山
聖夜降る雨あなたの笑いじわ
満天星の芽すでに炎である