【記念大会句座より】 中塚 唯人
さて大会ではいつものように皆さんから頂いた投句のうち、上位んのご意見を聞きながら私の進行で始まりました。今回の一等賞「一碧楼大賞」は、かみなり社小山君子さんの
遊び疲れた靴底に春の泥
です。この句は若い人からベテランまで多くの支持を得て、選句者三十一名の内、約半数の十五名から賛同を得ています。七五五とリズムが整い、作者の人柄か漢字になるべきところはすべてそうなっています。昨今のツブヤキ気味の散文調の句から見ると古い形に見えるかも知れませんが、オーソドックスないわゆる俳句の姿を貫いています。新しいものだけでなく海紅にこういった形を残そうとする力も捨てがたいものだと思います。
「自分の孫を見ているよう」「春という日が遊び疲れてしまう ほど楽しい一日であった」という賛成の評があったものの底と土がつきすぎる。「春」で止めたらどうかの評もありましたが、そうした場合に同じように半数の方の賛成が集まったかどうかはわかりません。現句だからの「一碧楼大賞」というのが事実であり、それは素直に受けとめたいと思います。ただしこういった意見も出たことが句会のいいところだと思います。
準大賞である「一碧楼賞」には梶原由紀さんの
プリーツゆれやまず合格発表の朝
が選出されました。同じく十五名の賛成を得ましたが、特選者が一名少なく次点となりました。この句の注目すべき点は十一名が女性だと言うことです。それもベテランと言うよりも句歴の比較的浅い方に人気があったようです。このことはこれから句作を始めようとする人たちに話し言葉で作る自由律句の楽しさ、自由律句は難しくないという安心感を与えたのだと思います。
前句のような俳句らしい句があってこの句のような、いかにも自由律らしい句があってこその海紅だと思います。
「プリーツゆれやまずに、若い人の心の揺れを見ることが出来る」「春らしく喜びに溢れる楽しい句」「この句を特選した人が男性が二人。大賞の句は女性が三人、このへんに一点の差が出たのかも知れない」等の意見が出ました。
ただし、前半部が新鮮味があるのに対して、結句の「合格発表の朝」はもう一考ありという意見もありました。いずれにしてもこの二句が一碧楼賞に選ばれたのは海紅人の一句の読み方にも個性の煌めきがあるのだと思われます。
三位の「海紅大賞」は正木土昜さんの
春待つこころを持ち歩く
この句一見、やさしそうな句に思えますがどうしてどうしていろいろな読み方が出来ます。簡単に言えば「春待つ心」ではありますが、人それぞれ、職業や年齢、地域性もあって読む人の「春待つ心」は違ってきます。すなわちは答えは一つではないと言うことです。作者の真に伝えたいことがあっても、読む人それぞれの答えがあることは悪いことではなく、作者の意図するものと異なった答えを出すことを作者が容認できるならば、それも良しとする近頃の傾向の句と思います。もちろん土昜さんには「これを伝えたい」と思う心があると思いますが、それを語るとこの句はつまらなくなります。じっと耐えることです。それが証拠にこの句は十二人の人がそれぞれの読み方をし、支持した結果の「海紅大賞」なのですから。
「若さ溢れる句」「持ち歩くに新鮮味を見出した」「雪国の人にはこの気持ちよく理解できる」「自然体で肩に力を入れてなく、癒やされる句」「心温まる句を作る作者。句に人柄が出てる」との評がありました。
そして第四位の句も正木土昜さんの
耕す人を三月が包む
「春の日が農作業をする人を温かく包んでる様子」「短律なれど詠み手と読み手が一つになれる句」「絵画的に情景を捉えている」という評でした。耕司・吉明・百草・唯人とちょっと風変わりな四人が選んでいるのも興味深いことです。
皆さんが必ず口にするのは作者の句に誰しもが温かさを感じることです。この温かさは句に取り組む素直な気持ちにあると思います。今後も上手く作ろうと思うのではなくこの素直さを貫いて貰いたいと思います。それが証拠に大会句として二句投句した合計点が一番多かったのは土昜さんなのですから自信持っていいと思います。
第五位は湯原幸三君
おまわりさん僕の春はどこですか
「軽みがあり春のユーモアを感じる」「自由律らしい句」「俳句というよりもキャッチコピーのような面白さの句」
由紀、耕司・吉明・百草・はるか・唯人とおもしろいメンバーがとっていますが、美登里さんやゆかりさんも認めています。本当に自由律らしい幸三君ならではの句と思います。
同点五位に小笠原玉虫さんの句
しら梅しら梅癒えた君とずんずん歩く
「しら梅しら梅と続けたところに嬉しさが溢れている」「病気が癒えた喜びを、自由律の持つリズムの良さで気持ちよく表している」
結構重い句がリズムの良さで希望を見出すいい句だと思います。
同点五位の森命氏の句
少し湿った場所になやみは置いておく
「少し湿った場所は誘うところ。ここの所が理解できるかで評価の分かれる句」たいした問題ではないが誰でも悩みを持っているということで「少し」と「置いておく」が生きている句との評価でした。
吉川通子さんの句も同じく同点五位の句
雪とけたらねの約束いっぱい
「とけたらね、というところにお孫さんとの約束でしょうか。ねに巧さがあり、この約束は果たされる約束でありそこに希望を見いだせる」
思わず微笑ましく感じてしまう句です。お孫さんとの約束と思われますが、それを言わずして感じさせる、孫の句で珍しく成功した句だと思います。
上位句には若い方の活躍が見られ頼もしいことですが、次号では休憩と写真撮影を挟んだ後のベスト6以降の句を取りあげたいと思います。