寄稿万華鏡2

 【一月俳三昧纏め】          梶原 由紀
  続いて後半6句を紹介します

  正月気分にピリオド打って卵かけごはん    耕 司
【句評】
・ 卵かけごはんが日常性を出していますね。やっと日常に戻って落ち着いたという感じがします。
・ 「卵かけごはん」がいいですね。トクベツもいいけどフツウもいいよ、とさらっと言うこの感じ、好きです。
・ 正月だからといって箱根駅伝を観るしか無く、早く終わらせてしまいたい独り者の悲哀が出ています。しかし次は恵方巻き、そしてバレンタイン、やがてひな祭りと延々と続きます。その中で楽しめる方法を見つけてみたらいかが。
【作者から】
正月三日も過ぎると、もちも食べ飽きちゃってさて何を喰おうかなって迷っていると、卵かけご飯だって思ってすぐさま実行した。なんだかいつもより数段うまい気がして不思議な感じだった。 

  この静寂は雪だ夜明けのカーテンをあける   通 子
【句評】
・ 自分の句も含め海紅句全体的に散文調になり意味を限定的にしている傾向があるように思います。もう少し異なった様々な解釈の余地のある句の方が私の好みであり永い鑑賞に堪えられるのではと思います。「雪の静寂が夜明けのカーテンをあける」は如何ですか。
・ 「カーテンをあける」がいいですね。雪を見つける動作はもちろん、夜の暗さが明けていく様子、雪で静止した風景に動が生まれる様子、静寂を切り開く姿が重なります。雪に気づいた感動を強く表していると思いました。
・ 「この静寂は雪だ」の弾むようなリズムを取らざるを得ない。今日は雪だ、しかもかなり積もっている! と見なくてもわかる、あの静けさ。実感がものすごく詰まっていると思います。
【作者から】
最初の所が一番言いたかったところです。私としては「夜明けのカーテンをあける」が安易だったかなと思いました。言いたいことを始めに言ってしまったら、次の言葉に困りました。もう少し考えなくては……。また、違う形で挑戦してみます。 

  詩の国の雪はリンゴの香がするという     梟庵主
【句評】
・ 何かわかるような分からないような。「するという」ということはどこかで読んだか聞いた話という事なんですかね。
・ 「詩の国の雪はリンゴの香」という持って回った表現が適切なのかなと感じている。リンゴと言えば、普通は雪国と相場が決まっている。作者は以前北国ではなく、雪国だと言っていたと記憶している。詩の国でなくても雪国で十分作者の想いが伝わるのではないかと思っている。
・ 「降る雪はリンゴの香がする」で良さそうな気がするのですが、何か原典がありそうですね。それで伝聞にしたのかなと思いました。郷愁とメルヘンを感じますね。リンゴの香のする雪は清らかでふんわりしてそうです。
【作者から】
詩の国が何処か、いろいろ言われていますが、私にも限定はできません。北原白秋に「君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」と云う歌があり、それが下敷きになっています。 

  図書館は花園こみちを巡る           聡
【句評】
・ 私は、花園の小道を歩いてたどり着く図書館をイメージしました。でもそうか。本が花園なんてステキですね。面白い聡さんらしい句ですね。
・ 直読すれば作者のロマンチストを感じます。「こみちを巡る」には、作者の楽しみな心情を思うのですが、なぜか別の意があるような気がするのは考えすぎでしょうか。
・ 昔、秋田の草薙猷逸師は「は」が最初に来るとその後の言葉はすべて説明になると言いました。正確な句意は解りませんが「花園こみち図書館を巡る」から、どうするかを考えたらと思います。
【作者から】
最近は本を買うこともなく図書館がもっぱらです。これなら読み進めるぞと思える新しい作家や分野に出会うと、鉱脈を掘り当てたようなわくわく感があります。そんな心持を句にしたつもりですが、ちょっと表現が素直過ぎたかな?

  雲がここまで降りて来たしぃんと雪のはら      はるか
【句評】
・ 大自然を全身で捉えそれに同化しようとする作者の苦心が窺えますが、ひとこと言い過ぎているような気もします。とは言えどの言葉をとるべきかは判断できません。「しぃんと」を言わずにしぃんとが感じられれば良いと思いますが、この句の場合は「しぃんと」が官能的でさえあるので外せないように思います。
・ 雪国に住む者として、今月は同じ感覚でした。「しぃんと」を本当に感じます。「雲が」がなくても私は分ります。
・ 宮沢賢治の世界を思った。「雲がここまで降りてきた」に、すごくリアルな感じがする。北国の人の句、バンザイと言いたい。
【作者から】
うっすら雪の積もった原っぱに立つと、空気が何となく白い。水蒸気の粒が見えるようでした。
「雲がここに居る雪のはら」これが最初の案。でも、わからないと言われるだろうと思って改めました。これでも雲=雪あるいは雲→雪と取る方もいらっしゃるでしょうね。雪on雲を何とか言いたかったのですけれども。「のはら」とひらがなにしたのは厳しさよりもやわらかさを出したかったためです。 

  牝猫しなやか夜明けの家を抜け出し       吉 明
【句評】
・ 魅力的な猫。吉明さんの句だと、牝猫に誰かを、何かを例えたのかな、って考えてしまいましたが。猫のことでいいのかな。
・ 「牝猫しなやか」が人間の女の人に思えました。ちょっと悪びれた感じ。朝気づかれないように出ていくので、朝番で早い勤務? いろいろ想像してしまいました。
・ 性別は違うけれど平安時代の通い婚のような印象です。「しなやか」であると同時に、言外にしたたかさや芯の強さもあるのかと思いました。黒猫でしょうか。どの色にしても毛並みが美しそうです。
【作者から】
青果市場へ行く夜明け前の道路で見た光景です。その猫がメスなのかノラなのか分かりませんが、頭で考えて想像で句にしました。こういった事をしていると自分の詩心が腐ってゆくように思いました。反省します。