寄稿万華鏡2

【三月俳三昧纏め】                                                             平林 吉明

   うねる川沿いを行くバスうなる       マヒト
【句評】川のゆったりした様子とバスのうなる様子が、春らしくていいですね。U音を多様することでリズムが出ています。曲がりくねった川沿いの坂道をバスが踏ん張って登っていく様子がありありと浮かんできます。   
【作者から】川沿いのクネクネした道を走るバスなんですが、「うねる」という文字が見た感じ曲線ばかりで、クネクネしててイメージが重なりました。

  春装をカフェに並べている寓話       由 紀
【句評】情景は浮かびますが、寓話という言葉をもってきた意図がわからなくて困っています。都市に住む人間にとっては、草木の花々よりも、服のコーディネートの方がよっぽど季節を敏感に感じるともいえるでしょう。結句で寓話と言わないで寓話を感じさせる語が来たならば凄いなあと思いました。
【作者から】カフェで見かけた光景を詠みました。気温は冬と変わり無い日がまだまだ多いですが、上着の中に春物を纏う人が増えてきました。春物の澄んだ色を見ていると、未だ残る冬の様相から浮世離れした存在に思えた次第です。浮世離れから「寓話」としましたが、「童話」が目的に近いです。

  中指で触るいいね春風は吹かない      ゆきこ
【句評】いいね」で、スマホでクリックかなと思いましたが、春風は吹かないがちょっと唐突な気がしました。
 春という幸せ感が一番ある季節と対比することで中指のコントラストが効いてくると思いました。いちいち、「よみましたよ」という意味でイイねを押さなければならない、ネット社会での付き合いの煩わしさが詠まれているのかなと思います。         【作者から】スマホ時代と言ってもいい今、SNSのいいねをクリックしないと気づいたら、友だちもいない? みたいな嫌な風潮。 スマホは中指を使い文字を打ちます。こんな小さい画面の景色やサプライズの物にいいねなんて虚しさを感じます。こんなところには春風は来てくれない。そんな気持ちです。

  はっさくにレモン文旦もう泣かないで     洲
【句評】すっぱい香を「泣かないで」と言ったのはおもしろい。思い切り泣いた時の感覚とすっぱいのを食べた時の感覚が似ているからかな? 共感できる素敵な句だと思います。
 はっさくやレモンや文旦が作者の回りに居る方々に思えてきて作者が如何に回りの人達に思いやりを持って暮らしているかが窺われる様な句だと思いました。
【作者から】二月も中頃を過ぎると、八朔、文旦、などの柑橘があちらこちらから届きます。まだまだ寒い季節ですが「もう春ですよ」と元気づけてくれるお裾分けです。

「泣かないで」はわかりづらいかなと迷いました。あの人から、この人から・・・と重なる事も多い様です。「また!」と悲鳴をあげてる人もいることでしょう。マーマレードにして、これまたお裾分けしあったり。ローカルで伝わりづらいですね。反省。
                   
  まだこの山にいたメジロ梅ヶ香みんな持って行け    命
【句評】自然を慈しむ作者の願いと失われてゆく自然への焦りみたいな思いを感じます。作者が久々に山に行き、かつてのメジロと梅の風景がいまだに残っていたことに感慨を得ているのかと想像しています。ただ作者はメジロに梅の香をどこに持って行けと言っているのだろうか、もう少し整理して作者の言いたい部分をあぶりだしてほしい。                         【作者から】愛鳥家たちが鳥もちと囮を持って走っていた頃は、メジロもよく見ましたが、捕獲禁止となってからは、皮肉にも見かけなくなりました。今月始め、久しぶりに見た時は、嬉しかった。悪環境の中で残っていたメジロに感謝の念まででました。まだこの山にいたは、いてくれたであり、説明しすぎかと思いましたが、外せませんでした。

  乾いた半月花屋の木も冷えた葉擦れ      聡
【句評】花屋の木が葉ずれする風の量を思うとき、乾いた半月が早春を教え、句全体として季を現していると思います。
 句の中に動詞と名詞が多く、作者の感動の中心がどこにあるのかつかめませんでした。
【作者から】深夜の商店街の花屋。冷たい風が強い夜。煌煌とした月のせいで暗い軒下にしまわれた大きな鉢の灌木がシャラシャラと乾いた葉擦れの音をたてていました。

  ラナンキュラスひらひらのはなびらのあいだの春  はるか
【句評】音や文字や長さがまさにひらひらしていて柔らかいですね。「はなびらのあいだの春」というのはいいですね。
 はなびらのあいだがこの句の肝なので、「ひらひらの」を取ってしまってどうでしょうか。〝の〟を続けるのもけっこうですがちょっと窮屈感があります。
【作者から】パステルカラーのラナンキュラスを買いました。光の入る場所に置いたら、はなびらの間に光が溜まっているように見え、春を強く感じました。当地ではまず光から春が始まるような気がしています。
 ゆったりと進んでいって一点に収束するようにしたかったので、この形にしたのですが、最初の「の」を削り
  ラナンキュラスひらひらはなびらのあいだの春
と改めたいと思います。

  コブシがパーッとやがてサクラがピースだ  太公望
【句評】軽くて楽しい感じです。カタカナとひらがなのよさですね。「やがて」がない方がもっと勢いがでそうです。花びらや花の形でしょうか、グーもあるかなと思いましたが、コブシが開く姿がグーからパーなのかと考えました。
【作者から】パーッと」の「と」は音にして詠んだときに勢いが加速すると思い、「やがて」は詠んだときはまだ桜のさの字もなかったからです。したがってピースとまではいきませんからね。そして「だ」は断定です。本当は「グー」「チョキ」「パー」の並びにしたかったのですが‥‥。

  もう雪はいい三月の風を信じる       通 子
【句評】もう三月なのにと言いたくなる感じがよくわかります。信じるという辺りが願いを越えた思いを感じます。「信じる」の思いの強さから、向かい風を想像しました。作者の目線は風の吹いてきた方向にあり、そこに春があるような印象を受けました。
【作者から】今年は雪が降った割には、早々と散歩道の雪がなくなり、春が早いかなと期待したら、雪の予報。クロッカスも芽をだしているんですがね。今朝から雪になりました。やっぱり、と言う思いです。三月の風に、気持ちを伝えたく、こんな句になりました。

  ハナニラめの勘違いかひと月早すぎるぜ   耕 司
【句評】荒っぽい言い回しが、却ってハナニラへの優しさを感じさせます。花韮は、海紅同人には特別な季語だから、この時期に見かけたら思わず句になってしまうのでしょうね。花韮への敬愛の情を感じます。                         【作者から】毎年四月のはじめは、五日が弟の命日で、九日が檀氏の命日なので年度替わりとか、進学、就職など区切りの時期なので盛り上がらなければいけないんだろうけど、盛り下がってしまうんだな。
 そして武夫師が花韮忌と名付けてくれた日を大切にしなければと毎年おもっている。それなのに、もうハナニラが咲きはじめていて、周りの雰囲気の読めないやつだなって思ってこんな一句になってしまった。
                       
  古いドア出て知る真実白い梅        吉 明
【句評】古いドアの内側にいる限り、知ることのなかった真実。白い梅に象徴されるような、潔く美しいものが扉の外に待っていた。ただの行為が作者にとって大いなる寓話に変貌した瞬間。それを注意深く言葉に彫刻したような軌跡をかんじた。
 足すも引くもない、しっかりとした句だと言って良いと思います。【作者から】確かに白梅は見たのですが、それ以外は心象風景です。行き詰まりの古い自分から出て行かなければとマンネリ化したドアを蹴破って外に出たつもりでしたが、そこに咲いていたのは古くか