寄稿万華鏡2

十二月俳三昧纏め          さいとうこう

十二月の花屋は赤い          耕 司
【句評】
・フレスコ画のようなタッチで、余白のある描写。
・シクラメンやポインセチア、12月のお花屋さんのイメージ。
・短い中に、はしゃいだ世間と距離を置く冷めた視点も込められていて素晴らしい。
【作者から】
 大体、週に一回は花屋に行く(仏壇の花を変えるため)。十二月に入ると赤い物ばかりが目立つなと。こういう場合はごくシンプルにした方がいいと思い、ほかのことには何も触れずに仕上げようと思った。

 だしをひく水源の初雪のたより     かおる
【句評】
・今、調理をしている水から水源にまで思いを馳せるかおるさんの料理に対する思い入れの深さに感心。
・水道の水ではない水でだしを引けるなんてのは本当に贅沢。その水源地に初雪のたよりが来た。テレビのニュースでも見たのか。作者の生活ぶりが見えてくるような感じ、句作の本来はこうあるべきなのかもしれない。
・信州の生まれなので、水を出汁と言いたくなる気持ちは分かる。田舎の静謐な冬の生活を瑞々しい感性で読まれた気持ちのいい句。
【作者から】
 住まいと隣町の水は明らかに味が違い、水源が違うのだと聞いた。そんなことに想いを馳せたりしながら出汁を用意。手間が掛かっても美味しいものをと、少し前から始めた。ところが水だしというひきかたは超カンタン。毎日の食事を整えるのは、苦行だったが、研いだお米と美味しいお出汁さえあればなんとかなる。この安心に楽しさも加わり、更にはなぜか出汁以外の手間もどんどんシンプルになってきている。わたしにとっての今年(2017年)の些細だが大きな出来事。

 月が穴をあけている          マヒト
【句評】
・ふたとおり想像してみた。①冴え冴えとした月の光が、何かを射抜くように照らしている様子。②黒の天幕の底にいるように夜空を仰ぐと、高いところにぽつりと穴が開いているように月が出ている様子。
・「穴」から光の鋭さが浮かんだ。最初に「月が」とすることで、見上げた目線が月の光線と重なって穴に吸い込まれていく印象を受けた。
・穴をあけるというと、舞台とか、仕事とかで最後まで全うできないことを言うんだけど、この穴でいいのかな。
【作者から】
 月が穴をあけるというイメージは実は昔のヨーロッパの考えで似たようなものがある。月や星というのは天の穴という考え。要は天がカプセルをかぶせたように地球を覆っているという風だと。その穴が月や星。穴の向こうが光っているという事は向こうには天国があるということ。大した想像力だが、寒空のくっきりとした月を見ているとそういう考えを抱かないでもないと思った。

 冬のさかなのはやさで君たちは 街   由 紀
【句評】
・雑踏の中、さしずめ駅。みんな、急ぎ足で目的地へ、あるいは家へ帰っていく。さかながスイッと向きを変えていくような。なんだか寒々しく感じる。
・由紀さんより少し年齢の若い「君たち」の様子がダイナミックな映像として捉えられている。一字空けての街も違和感がなく自然な感じでおさまっている。中島みゆきの歌「ファイト」が聞こえてきた。
・良い句だと思う。冬のさかなのはやさという言葉から、冬の街の雑踏が感じられる。街と空けたことによって、人の動きを感じられる。
【作者から】
 所謂イベントシーズンなのか動いているのかも疑わしい速度で歩く集団に道を塞がれることが最近多い。巻き込まれたときふと、彼らを寒い日のあまり動かない魚だと言い聞かせれば美しい存在となって苛立ちも減るのではと考えた。あれは美しいという自己暗示に基づきロマンチックになるよう心掛けたのだが、まさか悪意に気づかれるとは。冬の魚の速度のイメージに差があること、一字空けの是非は反省材料。

 ドライヤー最大出力さあ鬣となれ    はるか
【句評】
・髪を乾かしているときの遊び心か、鬣(たてがみ)と読むのだろうか。ご自分の髪かな、そんな気持ちで息子さんの髪を乾かしてあげてる? それとも何かを作っているのかな?
・「動」がある。ドライヤーで髪をとかしている事実を越え、何か大きなものに立ち向かうかのような決意。
・ドライヤーなんて床屋にでも行かなけりゃかけない。それも最大出力。かなり力が入って感じ。作者の心意気ってのをはっきり言わないでうまくいった。
【作者から】
 ドライヤーをかけていて、ふとタテガミみたい、と思っただけなのだが。いつもテキトーなのに、しっかり気合を入れていたのはタチの悪い風邪を引いてしまったため。弱い自分だからこそ、鬣を持つライオンや馬のように強くなりたいなあと思って、こんな句になった。

 そらしてた本心鮮やか霜落ち葉      聡
【句評】
・「そらしてた」「落ち葉」という素材を使いながらも、爽やかな印象に仕上がっているところが興味深い。真ん中に、鮮やかな本心とキラキラした霜がサンドされているからなのだろう。
・ある出来事がキッカケで曖昧にしていた本音を自己確認してしまった。その時の思いのすがすがしさが霜落ち葉のキラメキに見事に仮託されてる。
・落ち葉に霜ということは朝になって本当の気持ちに自分で気づいたという感じか。いい句だと思う。

 落ち葉掃くおとこの余白に落葉して   吉 明
【句評】
・「おとこの余白」が渋カッコいい。通勤時にいつも見かける、落葉を掃きながらのくわえ煙草が似合いすぎるおじさんを思い出した。
・状況が目に浮かび、その時の味わいもある。
・「落ち葉」「落葉」の違いを考えています。●落ち葉:物理的にも精神的にも距離の近い存在●落葉:距離のある存在、異物、と解釈してみた。
【作者から】
 実際の落ち葉と心に降り積もる落葉で変化をつけた。近所に世間との関わりを全く持たない男がいて、いつも家の前の木の下にしゃがみこんでぼーっとしている。ある日その木から落ちて積もった落ち葉を静かに掃いている姿があり、聖なる世捨て人と言った感じがしてその男の余白には詩が満ちているように思えた。

 ライン電話知らない喧騒とおめでとう  ゆきこ
【句評】
・思いついた言葉を並べてそのまま句になる場合と句にならない場合が有る。伝えたい気持ちが纏まらなければ、もう一度気持ちを整理し推敲することが必要。
・おめでとうはちょっと気が早いのかな、そういう意味ではないのかな。もう少し時間をかける必要がありそうだな。このような作品に出会う度に、檀師がよく言っていた一句は伝えるものだって言葉を思い出す。
・ラインのふたつのグループが混ざってしまっただろうか?知らない話題とその賑わいに戸惑いつつ、まあおめでたい話なら…のビミョーな感じ。
【作者から】
 時間をかけず、一瞬の感情を句にしてみたら、失敗してしまった。ライン電話は喧嘩していた息子から誕生日に電話があり、渋谷の雑踏のザワザワに聞き取りづらかったけど「お誕生日おめでとう。」という電話。なんだか知らない喧騒に混ざり息子の声が遠くも近くにも感じた。

 凍って融けて最期の時までサフィニアの花 通 子
【句評】
・思いがけず、寒さに凍結し駄目になってしまったサフィニアの花。綺麗な色のままくったりしている様子がより哀しさを誘うよう。
・時が有ることにより、より限定的な最期を感じる。それに対して「凍って融けて」がやや冗漫に感じてしまう。
・昔、利三郎さんが洋花は句にならないってよく言ってたけど、こんな風に句になってますよって言っとこうかな。
【作者から】
 この冬、出だしは暖かでサフィニアもよく咲いてくれると感心していたのに、突然の寒さに凍り、また暖かくなり復活してくれた。でもやはりサフィニアはサフィニア、本格的な冬が来てとうとう終わりを迎えた。

逆さまに冬コーンスープ寒       すすむ

【句評】
・状況がまったくわかりませんね(笑)。まあ、あえてそういうのを狙ったのでしょう。
・俳句に対する挑戦の様に思う。言葉を使って何かを表現する俳句は、美術や音楽が周りの音や形や色と関わりあって響きあい作品として成立するのとは違い、言葉そのものに意味が有るので、その意味に引きずられ逆に難解になりがち。言葉の意味に捉われること無く、音楽や美術の様にそこにある言葉の存在を感じたいと思う。
・寒を缶と読んだが、季の意味合いで、冬が寒と被ってしまうので、冬は削っても良いかなと思う。
【作者から】
 寒は缶。原句は「冬逆さまにコーンスープ缶」で嫌いではないが悪い癖で手を加えたくなり同じ語感の「寒」とした。冬も取ろうか最後まで悩んだが、今でさえ通じない句が取るともっと通じなくなりそうなのでそのまま残そうと思う。

 一コマ二分割母と子笑う電話      こ う
【句評】
・郷里のお母様との電話の様子と取った。一コマ二分割、一つの話題で笑いあっているこちら側とあちら側。こんなとらえ方があるとは。
・状況説明に終始している句。なのに、ほのぼの和む詩情が成立している。しかも季に頼らず。これは母子の情愛の普遍性が嫌味なく詠まれているからだろう。強いて言えば、状況説明に優先順位をどうつけるかの好みが問われるとおもう。
・お母さまとこうさんのラインのやりとりだろうか。お母さん目線で見てしまう。眩しいような「女の花道」。
【作者から】
 自分のことではなく、郷里の母と電話していた友人について詠んだ句。漫画の演出技法を取り入れてみた。