寄稿万華鏡2

三月俳三昧纏め             梶原 由紀

何も買わなかった利き手に傘があった   由 紀
【句評】
 物足りなさを感じつつも傘はちゃんと持っている、堅実さのようなものを感じます。
 華やかな春物の時期なのに、結局は生活必需品だけを握りしめている疲れや侘しさを感じました。
「右手」もしくは「左手」とせずに「利き手」とすることで自らの肉体への執着(もちろん良い意味で)を表現していると思いました。

早春行きのバス揺れ融通無碍ヒュッゲ    聡
【句評】
 前半のやさしい景色に後半が重い。でも言っていることはやさしい。と理解するには辞書も引き、パソコン検索をしてからのことです。
 句会で議論になる「知らない言葉を使う事」についての新旧リトマス試験紙のような問題提起を感じました。
 句会だと「新しい知らない言葉」は敬遠されて「古い知らない言葉」が有り難がられる傾向を感じるのですが、聡さんの句はそこがフラットだと感じました。
 一般的でない言葉を使うことの是非ではなく、要はその言葉のチョイスに必然性があるか否かという点において論じられるべき問題だと思いました。
【作者から】
 うららかな陽をゆれるバスのここちよさ。このまま、路線をはずれて桃源郷へいけばよいのに(笑) 東洋的な、何物にもとらわれない自由な心持ち。北欧(デンマーク)的な、温かい居心地よい雰囲気。これを韻で並べてみたくなったのでした。バスは揺れるに決まっているので、一つ韻を減らしてでも「揺れ」を省略するか検討中です。

父はもう寝てるだろう春の疾風      かおる
【句評】
 春一番とせず春の疾風としたところが、お父様を思う温かい気持ちとの対比として、より鮮明に表れているように思います。
 作者の優しさが何よりも先に出てきている、それがこの一句にほんの少し邪魔をしているような感じを持った。
「寝てる」の方が案じる様子が表れると思いました。強い風がお父様のところから吹いているようですね。
(自解を受けて)感覚的なものですが「颯」の字はなんとなく初夏~夏のイメージがあって……。ちょっと戸惑いが。
【作者から】
「寝てる」「寝ている」「春疾風」「春の疾風」今以て迷うところです。ご意見有難うございます。再考句
 父はもう寝てるだろう春の颯
「はやて」は矢のように去ってしまうものより、立ち上がるようなものにしておいてあげよう。元来派手好きだし。再々考句
 父はもう寝てるだろう春疾風
 詰めきれていない自分と向かい合う機会となりました。有難うございます。

オリンピック後遺症その気にさせてゲレンデ 通 子
【句評】
「その気にさせて」の読みは、お願いなのか経過なのか、その気にさせておきながら振り回されたなという思いなのか気になりました。
 オリンピックって起爆力がある言葉なので、後遺症まで言わなくても十分伝わる気がします。
「オリンピック症候群」「オリンピック・シンドローム」なんてしてしまうと逸れてしまいますか?
「後遺症」は通子さんの素直な気持ちが出ていて外せないように思います。「オリンピック後遺症」好きです。
【作者から】
 冬場は平日シーズン券を持ち、毎日とはいきませんが、朝の1~2時間スキーをしています。道が凍ると歩くのは危険なので、運動替わりです。オリンピックのスキーアルペン競技を見た後に、若い頃の気持ちに戻り、やれる気がして……。私だけではなくたくさんの熟年スキーヤーがそんな気持ちで滑っているようでした。今は転ばないのが目標なのでとんでもない挑戦ですが、そんな気持ちにさせてくれたオリンピックでした。自分では何の迷いもなく作りましたが、「させて」はどちらにもとれる。はじめは「なって」としていましたが変えました。もっとちょっと考えてみます。
後遺症について、どういう言葉がいいかなと考えた結果使いました。オリンピックがくれた勇気みたいなものですが、もっとぴったりする言葉があるか探してみます。シンドロームもいいね! 素人がやっているスキーですから、ちょっとおかしくしたい気持ちもありました。

雪の華咲き消えては咲き満ちてゆくひかり はるか
【句評】
 春は「暖かい季節」ではなく、「暖かくなっていく季節」である。……最近、ある人から聞いたはなしです。
 リフレインを崩さない場合の律を意識してよむと、「雪の華咲き/消えては咲き/満ちてゆくひかり」で、均整のとれた綺麗な律のプロポーションを感じました。
(自解を受けて)「雪の華消えては満ちてゆくひかり」はいかがでしょうか。
【作者から】
 ここでの「雪の華」は我家の窓から見える、近くの山の風景です。木の枝々に着雪して華が咲いたようになります。冬の空には花咲か爺さんがいるのです(笑)
 さて、この雪の華ですが、枝に雪が積もったままではキレイに咲いたようにはならないんですよ。降った雪が消えて乾いた状態でないとパウダースノーの美しさを堪能することはできないのです。最近、以前にも増して冬が暖かくなったと感じます。一冬に何度もこの雪の華を見るようになりました。地面の雪はそのままでも、枝に着いた雪はすぐに消えてしまうようになったのです。いいのかな? とちょっぴり思いつつ、「美」の持つ力を何度も感じる冬でした。ご指摘のあった「咲き」については迷ったところですね。もう少し考えてみます。
(自解後の評を受けて)すっきり整理されていて納得できたので、そのままいただきます。今回整理したあれこれは次の冬にまたチャレンジしようと思います。

殺風景な街を春にした女学生の袴姿    耕 司
【句評】
「殺風景な」街、「女学生の」袴姿、と修飾語+名詞のパターンが二回出て来るので、説明的と感じます。さらに、袴姿なら女学生であることも推測できます。言葉を引き算してもうすこし軽やかな春を感じたいな~なんて思ってます。
「春にした」がポイントなのかな。
「殺風景」という漢字のもつ不穏さと後半の穏やかな描写のギャップが面白いです。ただ状況の説明に終始してしまっている感もあり、省略しても良いと思いました。
【作者から】
 三月に入ったばかりの頃、例によって袴姿の女学生を見た。そこで春なんだと思うわけなんだけど、どう一句を作って行こうかという部分に時間が足りなくて、みんなの言っているような中途半端な形になってしまった。でもこの一句をどう直していくかではなく、新たな一句に向かっていこうと思っている。

月ノ夜ニナル涙ノ着信音         吉 明
【句評】
 あまり「涙ノ着信音」にピンときませんでした。説明はいらないと思いつつ誰の、何の涙か匂わせた方が心に迫る気がします。
 何となく思わせぶりな感じだが、それほど深い意味などなくて花粉症に悩んでいる人のことだったりした方が面白いなんて思っている。
「ナル」は「成る」と「鳴る」の両方で読みました。
 いつもの吉明さんの句よりも切れ味が鈍く感じてしまいました。というのも「涙ノ」の部分にやや安直さを感じてしまい詩情が薄れてしまっているように思われました。ただ抒情的な物語を感じる点は確かで、順番を入れ替えるだけでもかなり違った表情になり面白いと思いました。
【作者から】
 着信音が鳴るといつもドキッとさせられます。それで着信音で何句か作ってみましたが、あの音は平仮名ではなくカタカナに感じます。又夜に成ると夜に鳴るのダブルミーニングを狙いました。それにはカタカナの方が相応しいように思いました。指摘通り、この頃自分の句に切れが無く観念的になっている様に思います。句を作り続けるほどに難しくなってゆきます。「月ノ夜二ナル着信音ナミダ」に直しました。

ニッポンノハルというワンインアジア   こ う
【句評】
 他者に伝わりづらい事を覚悟の上で自分の気持ちに即した言葉を使う事は間違いではありませんが、それなら徹底したコンセプトが必要になると思います。「という」に推敲の余地がありその辺りにまだ曖昧さを感じてしまいます。冷徹に言葉を見つめることで、伝わるものが生まれるように思います。しかし色々な方法を試してみるこうさんの姿勢に若さと頼もしさを感じます。
 ワンインアジアを自虐ととるか自負ととるかを「という」の部分で匂わせてもいいかと思いました。
 私が引っかかったのは〝one in Asia〟です。もしアジアの中の一つの国に過ぎないという見方なら、〝one of Asia〟になるんじゃないかと。ですから、アジアにある国の、日本の春は素晴らしいよと褒められていると思っていいんじゃないかと。
【作者から】
情を消し去った無機質な句を意図的に作りたいと思ったのが動機です。平仮名や漢字、とくに漢字は象形文字なのでどうしてもそこに何かしらの意味が汲み取れてしまいます。なのでカタカナや英語を使ってみたのですが、皆様のご指摘のとおり中途半端な形になってしまいました。ご指摘いただいた「徹底したコンセプト」にもう一度立ち返って推敲してみたいと思います。

春一番を香菜と炒める街あるき      すすむ
【句評】
「春一番を香菜と炒める」がものすごくいいですね! 新鮮です。「街あるき」はその新鮮さと微妙にバランスが取れていないのではないでしょうか。
 春一番を香菜と炒めてしまうって言い切った一句ははじめてだと思うな。
 思い切って「あるき」を取ってしまって「街」で止めても面白いと思いました。
 風や香りの流動性のダイナミズムを活かすなら、結句の街歩きを句頭に持ってくるほうが良いかなと思いました。
【作者から】
 最後の「街あるき」は動詞と名詞のダブルミーニングを狙ったんですが、あまり生きずに混乱だけ残したようなので改めます。街で止めてもいい気もしますが、句の中に自分の姿を登場させたいので……。
 春一番を香菜と炒める街をゆく