近作玉什・巻頭

【近 作 玉 什】

九月号
八月号作品より           中塚 唯人薦
 ―もらい物
夜中の雨からだの奥でひびく             安達 千栄子
蝶川を渡ってゆくその先の春             伊藤 三枝
桜さくら雨の試練を受け入れる            上塚 功子
いつも素直で答えてくれる満天星とアマドコロと     河合 さち
今年も洗った亡夫のベスト桃が咲く           清水 伸子
繰り返し繰り返し肩を叩く春の雨            杉本由紀子
月光を浴びて猫の溶けゆくばかり            松田 寛生
古くなった昭和の硬貨                 無   一
芋持って行きタラの芽もらった祭り前          森   命
モッコウバラの勢いちょっと拝借            吉川 通子
       今月は十句とします

十月号
九月号作品より                中塚 唯人薦
 ―メリーゴーランド
キャベツ豚肉古本屋雨はこれから高円寺        大川 崇譜
歩いた顔に張り付いたお日様             加藤 晴正
子規さん球場黒土跳ね上げ盗塁セーフ          上塚 功子
一人日曜日仏さまと新茶楽しむ              河合 さち
紫陽花ぐるぐるメリーゴーランド             杉本由紀子
もう少し行かせてくださいねこじゃらし          原  鈴子
暮れない空にやり残しはない汗と土            森     命
思いっきり咲いている晴れの日の紫陽花          吉川 通子
ぐうたら猫と朝寝する日曜日               安達千栄子   今月は九句とします

11月号作品より               中塚 唯人薦
 -また夏―
スイカと唐揚げ並べ婆は孫を待つ              安達 千栄子
桃を剥く手抜きばかりの夕食に               伊藤 三枝
信号機青に変わる背中押す熱気               大西  節
仰向けに落ちた蝉夏また明日来るまた夏           加藤 晴正
出番が早すぎる桃が店先で膨れっ面             上塚 功子
朝顔の蔓先当てもなく一日中ゆらゆら            小籔 幸子
炎天一日ぐずぐずと終え冷やっこ               清水 伸子
笑顔いっぱいいっぱい持っていくね              杉本由紀子
夏のハガキ水色の声がする                  原  鈴子
花火揚がる幼子の黒目に                   松田 寛生
やめる気はなく人間                     無     一

 

 

 

  みやげ話                            川 根  小籔 幸子
しなやかに伸びする猫を横目に硬い体のストレッチ
もくれんの花天に向かって舞い上がる勢い
帰ってきたツバメみやげ話が止まらない
わらびの頭に蟻春の喜び語り合っている
汗をかきゴックン山の水に元気もらい
山吹の花明るく照らす夕暮れ
傘寿の会それぞれの傘さして又一歩

  おにぎり         倉 敷  原 鈴子
クローバー四つ葉ポロリと手帳の過去
背に雨つぶ庭の春草のざわめき
ほこり積む棚の写真が笑う
バッグのなかにおにぎりひとつ駆け込む改札
同じこと聞く同じこと答える春日向
山吹の濡れるしだれる音がする
モッコウバラ未完をおおいつくす

 

七月号作品より

 かたつむり       西 宮  松田 寛生
口を開け死んでいる野鼠春終わる
少し病む同僚の眼鏡が歪んでいる
転職を考えていると蝸牛這っている
目覚める度に青い月
仕事を休んで初夏の海
差し入れの缶コーヒー風薫る
自分から逃れられないから猫を飼う

 

 五月の空         東 京   吉川  通子

雨の月曜日は憂鬱って歌もある
薔薇の足もと出番待ちアジサイ緑の蕾
姉を訪ね不忍池の緑に埋まる
薄桃の花可憐ブラックベリーの実急ピッチ
ジャカランダ花咲かせたかマウイの島遠い
雲がぐんぐん煙突の煙り呑み込んで夏朝
美味しいパン屋へ歩け歩け五月の空

 

八月号作品より

 ドクダミの白        香 川  大西 節
小雨となる集落どくだみの白い静寂

朝市の人込み手に振れる梅らっきょ
庭七竈とめどなくこぼす足もと
昼咲月見草夢の續きをひきずり
田植機急ぐ畦みち狗尾草足にまつわり
白花螢袋雨にこもる予報ききのがし
雨に煙る落人の里坐像仏清し 

 梅ジャム            福 岡  清水 伸子
来るたび見るたび大きくなって夏が来る
海紅届く風さわやかにお隣りの百日紅
老木の梅ジャムになりとり急ぎ宅急便
初めて生った桃二つ仏壇に供える朝
山鳩が鳴いているこれからのスケジュール

どくだみ草に乗っ取られ日々自信喪失