【近 作 玉 什】
三月号
三月号作品より 中塚 唯人薦
―冬点描―
何やってたんだあっという間の一年 安達 千栄子
コタツ号発進風がない夜の冬籠り 岩渕 幸弘
モスのチリソース髭に聖者がやってくる 大川 崇譜
地蔵の頰打つ吹雪この先落合峠 大西 節
隣も一人者窓に明かりつく 加藤 晴正
庭一面落ち葉踏み踏み春に繋げる 河合 さち
おにぎりの海苔が破けてちらかりぬ 空 心 菜
穴だらけのキャベツに太った青虫天下泰平 小籔 幸子
明日が有るんだ自分でまいた種刈ろう 千田 光子
石蕗不揃いの花びらで咲き終わす 高橋 毅
柚子味噌柚子大根暮の手仕事母の味 中村 加代
咲きはじめたツバキ全身でひかりつかむ 原 鈴子
絵のような景色がよその窓 無 一
火を焚き湯を沸かし人来たる 森 直弥
娘三人分のアルバムこの家冬陽さす 森 命
四月号
四月号作品より 中塚 唯人薦
―七草粥―
海藻サラダぜろカロリーみたくなぐさめている 石川 聡
目白の声に目を凝らす山茶花の垣 伊藤 三枝
納豆糸をひく余韻こころは雪の里 岩渕 幸弘
七草粥に息災ねがう私の命 大内 愛子
大根人参里芋丸くまあるく餡入り雑煮祝う 大西 節
白梅は十郎小町開きかけ蕾三つ四つ 上塚 功子
災害と受験やるしか無いと高校生の目は輝いてる 小籔 幸子
小さな葉牡丹植え秋田の友想う 清水 伸子
あの笑顔あのあたり冬雲うごく 原 鈴子
夫婦喧嘩お箸とお椀とお正月 平林 吉明
冬蝶の死は燃えるゴミ 松田 寛生
たき火の香ばしく氷雨 無 一
この部屋の此処カレンダーの適材適所 森 命
今日が終わるグランドの向うの夕焼け 吉川 通子
雪降りしきる紅いサザンカ白いさざんか 若木はるか
五月号
四月号作品より 中塚 唯人薦
―春の扉―
FDA機体は苺色思わず両手あげる 伊藤 三枝
このかなしみくるしみくやしみくるこないくるくるうかも
岩渕 幸広
背もたれに我が身あずけて日向ぼこ 大内 愛子
池の水涸れ雀と遊ぶ連れづれ 大西 節
行き止まりの切なさがうつむいていた 加藤 晴正
古株シクラメン冬陽エネルギー注入 上塚 功子
梅が咲き米寿はまだまだ生きまっせ 清水 伸子
とんとんとん誰かのノック春のノック 杉本由紀子
青年の主張集大成の日であった一月十五日 高橋 毅
買物ルンルン孫にはいちご 中村美代子
足もとイヌフグリ小花散らしてふんばる 原 鈴子
乾いた服たたむ言葉の無い暮らし 平林 吉明
十年前に書いた遺書いやに丁寧な字である 松田 寛生
白いカーテンのような雨上がりの空 無 一
障子に破れありお雛様の覗き窓 森 命
【巻頭句】
三月号作品より
冬の陽 東 京 加藤 晴正
誰も来ぬまま解体の家
冬の陽ふくらむ本を読む
手が冷たくてページめくる部屋
ぽっかりと陽の差す言葉もある
冬の陽の暖かいまま駆けてゆく
あくびした雨の降り始め
妹だけ来た 靴を端に寄せておく
御神酒 浜 松 中村 美代子
七輪囲んで缶ビール暖かな正月
紙コップたっぷり御神酒すっきり
足湯して心もあったか道の駅
おもいっきり浜歩く自分だけの時間
あれもしたいこれもしたいおうち時間
四月号作品より
春の傘 横 浜 空 心 菜
春の日がビルの陰から現れる
春の雪黄色い傘の女の子
春寒し背中脇腹足の先
鼻と目と口から食べるさくら餅
アンテナにそれぞれの向き春の風
小田原は昔の宿場春になる
皸の絆創膏が剝がれると
なごり雪 周 南 三戸 英昭
東風吹きて干した衣服に梅の香や
青空に干した衣服になごり雪
携帯の液晶画面に雪の華
風鈴の仕舞い忘れし春の音
東風吹きて鉢に被せしビニル舞う
きさらぎの雪のティアラの晴れ姿
旅立ちし君の背中になごり雪
五月句作品より
種明かし 東 京 岩渕 幸弘
春黙読の裸也
こころにも名をあたえ まっしろな本のうえ
玉葱の種あかし月のしずくをしずかにしぼる
さよりをしらない少女鳥ですか 鳥です
やってきた憂鬱 ぼくはカボチャと揶揄してく
夜空根城にだれもしらない春をまつ
求人真面目可不真面目可
なんとなく 福 山 無 一
目覚めの耳の奥に何かの気配
頭痛の原因を探しながら曇り空
印象を悪くする笑い声だ
つきまとう恐怖から買い過ぎの病
ぐずぐずと過ごせる休みの独居
朝の歯みがきを忘れたと気付く休みの道中
日常のもろさを知らない子供らの元気な声だ