寄稿万華鏡1

句評―八月号作品より
                        石川 聡選
石狩湾にぽとん太陽の黄身          ひつじぐさ
夕陽を黄身に見立てた感性に惹かれます。黄身色の太陽が湾に沈む雄大なイメージが浮かび句柄の大きさが魅力です。

 今年は良く咲いた墓に紫陽花をたてる  森 命
「墓に」の位置が絶妙です。「良く咲いた紫陽花を墓に」とする所、さりげなく語順を変えています。これで読者の意識が墓に立ち止まり、今年の紫陽花と今年の墓参りの一回性が効いてきます。味わい深い巧い句です。

 あたまひえるほどむずかしい      ま  さ
 難しいと頭が熱いと詠んでしまうのが月並み感覚です。逆を言った感性にハッとさせられました。平仮名の軽さも好きです。

 窓のまぶしさ半分に減らす       無  一
よくある場面ですが「半分に」が効いて無一さんの人間味が倍加していま
す。老練さに、にやりとしてしまいました。

 立葵たそがれの塔となる        若木はるか
 タ行音を各節の頭に据えた簡潔な律。塔の見立ても卓抜で夕陽、花、陰影がくっきり立ち上がります。

 はやく削られきって死にたいかつお節  岩渕 幸弘
 切迫した絶望感が伝わってきます。かつお節に自分を象徴させているとしたら何という切なさでしょう。今の時代の陰の気分を如実に削り出している一句と感じました。

 あき目で眠るどくだみはそっと起こしませぬよう
                    大迫 秀雪

 句頭の一発で大勢は決しました。数あるどくだみ句を見てきましたが、どくだみの花を「あき目で眠る」と詠んだ人はいたでしょうか? 真似のできない独自の感性に脱帽です。

 暴色のツツジ春も着こなせない       小早川 すすむ
「暴色」をよくぞ発見したなぁと感嘆しきりです。強烈なイメージ喚起力を持つ語でつつじの過剰感を表現し尽くしています。否定形の結句がこのパワー感をしっかり受け止めて句が最後まで崩れていません。代表作の一つとして大事にされたら良いのではないでしょうか。

                                                        若木 はるか選  花びら一片火の粉となる夜風      木内 シン
 今月のシンさんの句は連作となっている。薔薇の花束を抱えて歩く男。遠くの火事で薔薇はほのかに光る。夜風にひとひら、花びらが攫われていった。まるで火の粉のように。帰り着いて花束を解く。TVではテロのニュース。あの火事は…。夜の窓には蝙蝠が来ている。花瓶など持たない独り住まい、ワインボトルに薔薇を挿して床の隅に。まあなかなかさまになっているじゃないか…。花束の理由は伏せられている。そこを想像するのも楽しい、美しいストーリー。「連作」としての自由律は作例が少ない。もっと試みられてもいいと思う。

 愛しているけどリードと首輪      河内 秀斗
 飼い犬のこと? だが、こうして言葉として並べられると、犬→人間と想像力が働いていくのを抑えられない。誰もが繋がれている。見えないけれども「愛」という名のリードと首輪に。

 見つめあう月がきれいね        岩淵 幸弘
 互いの瞳に映り合う月。同時に「月が綺麗ですね」は愛の告白の言葉である(漱石がI love you の訳語としたことから)。短い中に複層構造で美しいシーンを作り上げている。

 喧嘩ばかりだったお前に、今、花、献げ、、、た
                      さいとうこう
 友人への追悼句。「、」読点が涙であり嗚咽であることは、どなたにも容易にわかるだろう。読点がこれほど語っている句はないと思う。

 名もない花はない名もない花がよい    さいとうこう
 これもとても好きな句。道端の雑草にもちゃんと名前はある。それは安堵すべきことかもしれないけれど、窮屈でもある。名をつけたとたん、その名に縛られてしまう。縛られることなく、あるがままでいたい、また、あるがままを受け止めたい。そういう宣言として読んだ。


                           吉川 通子選
長い梅雨に文句をいい、厳しい暑さにため息をつきながら、夏もゴールが見えてきました。季節を振り返りながら句を選んでみました。

 田植え近い水は天を映す           安達千栄子
 雨上がれば真青な空どの田も水をはり     渥美ゆかり
 育ち盛り青田は雨を主食に          折原 義司
 白鷺も鴨もこの青田の住人          中村 加代
 田起こしに始まり、水が張られ田植えの時がやってきます。都会では見られない日本の原風景です。準備万端の水田、空の色を映し、広々とした奥行きを感じます。稲の苗が育てば、その青々とした苗が雨に濡れる様子や、田の虫に集まってくる鳥の様子など、雨もまた良しと思える時です。

 梅もアンズも終わったしきりに音のない雨 清水 伸子
 案じていたぞ蝦蟇が出てきて梅雨に入る  高橋 毅
 山梔子にふいを突かれた梅雨入り     田中 耕司
 釣り竿ぽつりと梅雨の日を持て余し    中塚 唯人
 清水さん、梅酒や梅干しにしたり、アンズジャムを作ったり、一仕事終え余裕をもって梅雨を迎えた感じです。高橋家おなじみの蝦蟇、今年も元気で登場です。耕司さん、いつもながら日常と花の取り合わせがぴったり。唯人さん、釣り竿を見つめながら、さて梅雨が明けたらと虎視眈々の思いも伝わってくるようです。

 ポロシャツきみが夏至がスカイブルー      梶原 由紀
 夏至と確かめて朝の光が格別        原  鈴子
 石狩湾にぽとん太陽の黄身         ひつじぐさ
 由紀さんの句に登場のきみ、いいですね。夏至と断定してのこの色は、空と同じ色のポロシャツと考えていいでしょうか、由紀さんの晴れ晴れとした気持ちかな。どちらにしても、きみが夏至がスカイブルー、爽やかで気持ちのいい句です。鈴子さんには、もう夏なんだな、さあ今日も一日、そして、この夏も頑張ろうとする意欲を感じ、ひつじぐささんの句、石狩湾に陽が落ちる瞬間、立体的で、それを受ける海の穏やかな様子。写真では見えない色なのに、句だと見えるようです。

立葵たそがれの塔となる               若木はるか 

 立ち葵と背比べ天辺まで蕾             上塚 功子
 はるかさんの立葵は黄昏の中にシルエットのように浮かんで見えます。いつもの立葵とまた違う顔を見たようです。功子さんは立葵と向き合って、天辺の蕾の方は背丈よりずっと高い所についていたのかも
パラソルの火照りたたむ真夏日             渥美 ふみ
   ひと晩で延びるキュウリに振りまわされ        小藪 幸子
   夏雲が何の予告なしに下りてくる           杉本ゆきこ
ふみさん、いいですね。ふみさんの佇まいがとても涼し気。小藪さん、キュウリは一気に出来て大変。我が家もよくおすそ分け戴きます。農家の方は食べ方もよくご存知です。今は、味噌に一日漬けるだけで簡単で美味しいキュウリを食べています。天気予報がちゃんと当たればいいんですが、予報でさえどうなるかわからないと言う。ゆきこさんの予告なしに下りてくる夏雲はほんとに困ったものです。