寄稿万華鏡1

句評―七月号作品より

                                                         石川 聡選
さんざめく春の捕虜になりたい     さいとうこう
 五・六・四の韻律。平明で素直な句姿。浮きたつような明るい口調。おおらかでのびやかな調べ。aの母音が多く入っています。春の候と調和したみずみずしい詩情を感じます。石田波郷の「バスを待ち大路の春をうたがはず」を思い起こしました。

さびしみ南の海がきらきら       田中 教平
 四・七・四の韻律。晩春の海の光の美や高揚と逆の「さびしみ」に惹かれます。南海の煌めきは余計、透明なさびしみが沁みます。この「さびしみ」は小林秀雄がモーツァルトの本質を空の青さや海の匂いの様にかなしいと評した悲しみと通ずるような深い味わいを感じました。

弧ヲ描クツバメ斬ラレ斬ル皐月     森 直弥
 七・五・三の韻律。皐月は燕が一番子育てに忙しく、陽光煌めく日中、最高時速200kmで飛ぶ昆虫を獲りまくるそうです。翻る飛行軌道を漢字カタカナで言い取った「斬ラレ斬ル」は巧みです。白い腹を見せてのターンは斬ラレ、背を向けては斬ル。太刀筋の袈裟懸けと逆袈裟の見立てにも読め痛快です。

ヤクルトレディ路地に飲まれる    本間 かもせり
 普通ならヤクルトレディが配達で路地へ入ったと思うだけでしょう。作者の鋭い感性がその一瞬の光景を文芸化しています。飲まれるヤクルトを配る存在自体が路地(人々のくらしの象徴)へ飲まれて消える瞬間。切り取られて読者は初めてハッと納得させられます。

静かな道私の心でのびる        笠原 マヒト
 六・八・三の韻律。マヒトさんの作風は、限界までの削ぎ落しと感じています。詩情が助詞一文字のみに込められている例もありました。珍しくこの句は、作者の心持が前面に出て瞠目しました。静かな道が自分の進む希望の道への象徴と読めて、好きです。七句中二句はこんなマヒトさんの句を読みたいなと思いました。

                                                                                                     若木はるか選さんざめく春の捕虜になりたい     さいとうこう
 春に酔う気持ちをストレート過ぎるくらいに詠んでいて、心地よい句ですね。「さんざめく春」のやわらかさに「捕虜」という漢字の硬さが対比され、強い印象を残します。「なる」と言わず「なりたい」と能動的な表現にしたのも月並みにならない重要なポイントでしょう。ただ「さんざめく」が適切かどうかは少し疑問が。「大勢で賑やかに騒ぐ」意味もあるので、捕虜とする側のイメージが曖昧になり、句を弱めてしまう恐れがあるのでは。

堕天使の周波数に合わせる       杉本ゆきこ
「堕天使の周波数」ってどういうこと? 普通はない言葉の組み合わせがぱっと目を引き、むくむく興味が湧いてきます。そういう強い力を持つ句と思いました。
 少し意地悪な気分になってみようかという意味でしょうか? それとも斜にかまえたかわいい堕天使さんの気持ちに添おうとしているのかも。わざわざ合わせるという、ちょっぴり努力がいることなのでしょうね。

福に飢える              無 一
 はい、私もです! 人生も折り返し点を過ぎ、これぞ福、という出来事は少なくなったという実感があります。平板な、福に飢えつつ過ごす日々。
わかりやすく、読み手の想像を誘う奥行きもそなえていて、短律として上出来の部類ではないかと思います。

古寺に一点のひかり牡丹咲く      安達 千栄子
 白い牡丹の花を「一点のひかり」と言い切っています。内側から光が射すような白牡丹の輝きをまさに言い当てたと思います。「古寺」とくすんだ背景を持ってきたのも効果的。定型句ですが、自由律をやっていても時にどうしても定型がいいという場合がありますね。

他にこんな句が素敵だなと思いました。
あたたかくふたり歩いてゆく      田中 教平
進み行く形に残されていた蛇の衣    森川 チヤ
あれば夕陽を買う           石川 聡
地団駄じゃないタップダンスだ     大川 崇譜
敷布真白に干され春がゆく       大西 節

                                                         吉川 通子選
あれば夕陽を買う           石川 聡
 新しい言葉を駆使して新しい自由律句に挑戦している聡さん。いつも発想が楽しいです。そんな句の中で、短くシンプルなこの句がすっと心に届いてきました。

心と肩甲骨の裏がかゆい        小早川すすむ
 本当にそのあたりが痒かったのかもしれませんが、手の届かないもどかしさ、思い通りにならない歯がゆさ、きっと誰もが感じたことのあるそんな気持ちをユーモラスに表していると思います。

春に真夏日嘘まかり通る日本の国    高橋 毅
 気象現象も、政治の世界でもこんな日本が続いています。自然には手が出せませんが、政治に関しては、思いがつのります。災害にも未だかってない、とか何十年ぶりのとか言ってないで、早く政治主導の対策をとってほしいとつくづく感じます。

セイヨウタンポポのその先の闇     本間かもせり
 同じ外来種の亀や魚は見た目が危険で嫌われ者になっていますが、セイヨウタンポポは緑の中に点々と咲き、可愛いくて抜けない。そうすると在来種のタンポポや他の植物が育たなくなる。生きる力が旺盛なセイヨウタンポポの駆除は、根からしっかり抜くように指導があり、その繁殖力からも咲かせていること自体に後ろめたさも感じます。さてその先の闇とは? セイヨウタンポポにあるこういう事情かな、と思いました。

日々上書きされるみどり        若木はるか
 この「上書き」はIT用語になりますね。新緑のころの、どんどん姿を変えていく緑の様を上手く言い表していると思います。国語辞典にある上書きは手紙、書物の表面に書くこと、表書きとあり、私にはあまり使わない言葉になっています。理解しにくいIT用語が数ある中で、この「上書き」は使う人にとっては便利な言葉になりました。