句評

3月号句評 ―新年号作品より     杉本由紀子選
和尚六人お経ハモっていた      中村美代子 

 年末の法事でしょうか? 六人の和尚さんのお経がハモっていたなんて、すごいですね。
 お経は聞いていると心は穏やかになっていきます。六人のハモっていたお経、聞いてみたいです。きっと惚れ惚れするお経でしょう。句も短律でキッパリしていて良いです。ユーモラスな句ですね。 

痩せてゆく心の削り過ぎた鉛筆     無 一
 せてゆく心、年老いていくと心の振幅が少なくなり、痩せていくという表現がピッタリだと思います。そしてそれは、削り過ぎた鉛筆のように、無骨なのですが、愛情も込もっているそんな気持ちが切実に伝わります。
 心象風景の句として、もの悲しさもあり勇気ももらえる句です。

 落ち葉一枚栞にする親父をまねて    森 命
 とても優しさを感じる句です。落ち葉を一枚拾い、お父様がしていたように本の栞にした。その一枚の栞には、まるで昔の思い出が詰まっているようです。お父様は今はご健在なのでしょうか? お父様に対する優しさが伝わる句です。また栞の色は黄色でしょうか?赤でしょうか? 想像する楽しさもあります。 

一文字あけて全自動               大川 崇譜
  
一文字あけてが何の一文字か考えました。句の一文字?文章の一文字? どちらにしろ 一回休憩ということではないでしょうか?
 それからは全自動でできちゃうもの? 洗濯機、食洗機、掃除機などを思いうかべましたが、一回休憩することが必要だったのでしょう。心象風景を表現しているのだと思います。
 一回休んで、あとはもう全自動のようにスムーズに何でもできちゃう生活の一ページを 感じました。  

カレンダーあと一枚の後悔      加藤 晴正
 カレンダーも十二月あと一枚で終わります。 それを、あと一枚の後悔と作者は言っています。
 後悔ばかりではなくても最後のひとつきを カレンダーで見た時に、後悔があと一枚で終わることを思ったのでしょう。何気ない句ですが、作者の心情が伝わる句です。 

美容師はオレンジちょっと入れようか私の髪も紅葉か
                         河合 さち
 今、髪の毛をお洒落に染めている老若男女が 街で見かけます。作者は、美容師さんから薦められてオレンジ色をどこかに入れたのでしょう。「私の髪も紅葉か」にユニークさがあり、楽しい句です。 

5月俳三昧よりー参座者合評

○さくらださくらだメジロも来た河津桜   幸 三

「命」―平仮名で「さくらださくらだ」の勢い。「メジロ」をはさんで「河津桜」、小気味良い句です。
「晴正」―先週、上野公園に行った時、河津桜の蜜を吸っていたメジロを見ました。可愛いですね。寒の戻りで寒い日がありますが、春が近いなあと思いました。
「通子」―中々やって来ない春に河津桜が咲いたニュースは嬉しいですね。私も散歩道で、河津桜が咲き一足早く春がきた気持になりました。メジロまで現れましたか。その嬉しい気持ちが伝わってきました。
「唯人」―「さくらださくらだ河津桜だメジロも来た」と「さくら」と三回連呼してお祭り気分をさらに盛り上げたいですね。
「幸三・自解」―早い桜を見に人々が集まっている昼間の公園の雰囲気を句にしようと思いました。
余談ですが近所の公園の桜にはメジロも実際にたくさん集まっていて、普段はどこにいるのだろうかと不思議な感じがします。

○梅は白や紅の花咲かせ東京大雪の予報   通 子「幸三」―つい先日も東京で雪が降りましたが、こちらの句ではまだ予報の段階なところが良い雰囲気だと思いました。
 前半が音読しづらい点が気になります。
「晴正」―東京は少しの雪でも混乱してしまいますが、雪を見たいなあとという気持ちもあります。
この前、少し遠出して梅園に行きました。雪の中の梅もいいかなあと思いますね。梅の花と雪のコントラスト。「大雪」しかも「予報」というフレーズ。なにか幻想的な気持ちになります。
「唯人」―「梅は白や紅の花咲かせ」と、ここで「て」をいれなかったところが秀逸です。「て」をいれると説明的になる場合や一拍おいて切れてしまいがちで、これを自然に抜いて一気に言い切ったところは修練のたまものと思います。
「通子・自解」―やっと梅が咲き揃った所に、大雪の予報、そんな気持ちを句にしました。
 今は桜が満開になるというのに、花曇りでは済まされないほどの寒さです。
 今年だけならいいけど、と不安になります。

○洗濯機ちょっと幸せな音がする   晴 正
「幸三」―私は洗濯機の音に幸せを感じたことがなく、面白い感覚だと思いました。
「通子」―洗濯機が回って洗濯をしている音に、ごく当たり前のようなことに、幸せを感じられたのでしょう。ひょっとしたら何か良いことがあったのかもしれません。
何気ない日常に何か安心感を持たれたのかもしれません。
「命」―幸せを洗濯機の音で確認したと言うことですね。良い句材だと思います。幸せは自分が感じるもの。幸せを感じている作者がそこにいる。リアルタイムな句です。
「唯人」―ちょっとがいいですね。昔から少しという言葉は、微妙な感を現すに都合のいい言葉でよく使われます。いわゆる便利な言葉ですね。それをちょっとしたところに新鮮味があり、海紅の前例を覆すうまく使った成功例と思います。そしてユーモアが出る。欲を言えば「季」が欲しいです。幸せを「はる」はありきたりですが、「さくら」とか言い換えたら俳句として最高と思います。
「晴正・自解」―ありがとうございます。「ちょっと」と言う言葉にこだわってみました。洗濯機の回る日常にフランクに寄り添えるのは「ちょっと」と言う言葉かなあと。あと、下町的な意味合いも込めました。

○忘れていた景色雪雪雪の日記帳     命
「幸三」―忘れていたほどですからこの冬は雪が少なかったのでしょうか。あるいは特別に雪が多い年の日記帳を読み返したのでしょうか。
 雪があまり降らなかったり続いたりすることについて作者がどのように思っているのか、普段の状況がわからないのでイメージしづらい感じがします。
「通子」―今年は雪が少なかったのですね。日本海側の雪が多かったのかな。
 いつもなら毎日のように雪が降るのに、ちょっと違う様子ですね。雪は無い方が楽でしょうが、それはそれで、気候の変化も気になる所ですね。
「晴正」―三つ重ねた「雪」が景色を際立たせていますね。日記を見て「あーこんな時もあったなあ」という感慨。それが、いま現在を際立たせていると思います。
「唯人」―今年は雪が少なかったということを言いたいのでしょうが、それがゆえに日記帳などの小道具を用意していますが、ちょっとすぐにネタバレでそれがどうしたと言われそうです。残念ながらその後が聞きたいと思うところです。

 ○悲しいこと忘れてまあるく眠る     由紀子
「晴正」―まあるく、猫的に眠って悲しいことが無いような猫的人生を送りたいなあと思います。悲しいことほど繰り返し思い出しますね。「忘れて」と言いたいほど悲しいことは、残っちゃうんですよね。
「命」―「まあるく眠る」は、猫とりわけ愛猫だと思います。猫の悲しいことって何だろうと考えてみましたが流石にわかりません。作者が猫を飼っているかどうかわからないので曖昧に読みきる事はできません。まるくではなく、「まあるく」に惑わされてしまった。
「唯人」―「まあるく」は「まるく」というところを海紅ではよくこう書きます。これは三字よりも四字で仮名で書くとソフトで情緒が出ます。この句は悲しみの句と思われますので「丸く」と端的に言った方が姿が見えて心情がより伝わると思いますが。

 ○少しばかりの雪で朝から街中大騒ぎ   千栄子
「幸三」―東京はまさに「少しばかりの雪」で街中大騒ぎです。つい先日も大騒ぎしたばかりですのでタイムリーでした。
「晴正」―東京だとしたら、「少しばかりの雪で」大騒ぎになっちゃいますね。雪国の人から見たら滑稽でしょう。「大騒ぎ」している情景が、はっきり浮かんできます。なんか楽しい。
「唯人」―これは作者が東京の人ですと、自分で滑ったり、私などは長靴を持たないからそうだなと切実に思います。ただし雪国の人から見れば馬鹿なことをまたやっているなと揶揄の目で見ているでしょう。作者はどちらを思って作ったのでしょうか聞いてみたいところです。

○雪だシャベルは色めき立ったが都会の雪は儚いのだ
唯 人
「幸三」―シャベルが色めき立つという表現が面白いと思います。ホームセンターやスーパーの店頭に急にシャベルが並べられる様を思い浮かべました。
「晴正」―東京では近年シャベルが活躍する雪が降りませんね。シャベルという単語を久々に目にしました。儚いというのは、ある意味、詩的情感があります。東京の雪は現実的な儚さとでもいうのでしょう。

「通子」―先日の東京の雪はちょっと変わっていました。
随分大きな雪が降って屋根にも積っていたのに、止んだと思ったら、あっという間に雪が消えました。雨が降ったり、気温が高かったのでしょう。まさに儚い春の雪だったのですね。
 シャベルを使わなかったのは不幸中の幸いと考えましょう。
「命」―3センチ積もれば大雪の東京ですから、雪シャベルを持っている人の方が粋ですな。もし、多く降ればシャベルはあっても捨て所がない。やっぱり都会の雪は儚くて良いのです。そう納得すると、この句長いけれど佳句なのですね。でもやっぱり「色めきたった」は引っ掛かります。
「唯人―自解」―我が家にはシャベルが三、四本あります。プラスチック製(?)は軽くて使いやすいのですが朝などの凍った雪には歯が立ちません。鉄製(?)のほうは重さもあり先も尖って堅い雪でも刺さり実践的ですが体が持ちません。この連中は出番を待っていますが、昨年は一度、一昨年は二回、今年は降っても積もることもなく、そんなシャベルの心境を思ってみました、